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年次大会
大会報告:第54回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第7部会)


第7部会:アジア社会論  6/17 14:30〜17:00 [西校舎・1階 516教室]

司会:田嶋 淳子 (法政大学)
1. 日本と韓国の宗教環境とプロテスタンティズム 李 貞植 (常磐大学)
2. ローカル化する戸籍制度
――外来流動人口に対する上海市の戸籍制度改革を事例に
 [PP使用]
神山 育美 (一橋大学)
3. グローバリゼーション時代のフィリピンの海外雇用政策
――船員職種に関する考察
 [PP使用]
越智 方美 (お茶の水女子大学)
4. 途上国での社会調査に関する一考察
――2005年カンボジア国除隊兵士調査から
 [PP使用]
東 佳史 (茨城大学)

報告概要 田嶋 淳子 (法政大学)
第1報告

日本と韓国の宗教環境とプロテスタンティズム

李 貞植 (常磐大学)

 日本と韓国は古代から中国文明に従属する周辺文明圏として、多くの文明と文化によって影響し合いながらときには歴史も共有してきた。その中でも宗教なるものは仏教と儒教という順で、韓国と日本へ受容された。

 そして近代に入り新時代の思想としてプロテスタンティズムが受容されるのであるが、それが今日の日・韓のプロテスタンティズム普及率としてあらわすとき、韓国では総人口の25%程度、日本では1%に満たないものとして現れている。

 プロテスタンティズムは日・韓両国において同様に異質なものにあったに違いない。このような普及率におけるギャップの原因を私たちはどこから求められるのであろうか。そしてこれから派生した問題として、東北アジアで共有した伝統的宗教を各国にとって異質性のない思想として認識していいのかという疑問が生じる。

 そこで、日本と韓国の宗教思想史を再検討する過程をとおして、日本と韓国それぞれの基底に流れる宗教思想(世界観)を導き出すとともに、伝来宗教の受容形態と近世の宗教環境を明らかにしていきたい。そこから現代にみられる両国のプロテスタンティズム普及に見られるギャップの原因を究明したい。

 そのために、ここではトーマス・ルックマンの「世界観(人間の社会化過程、および歴史的社会的秩序が生み出す意味形態の内面化)」理論を採用して本課題の究明に執りかかることとする。

第2報告

ローカル化する戸籍制度
――外来流動人口に対する上海市の戸籍制度改革を事例に

神山 育美 (一橋大学)

 新中国成立後中国では、巨大な人口の管理を目的に戸籍(戸口)制度が実施された。常住地における登録と人の自由な移動、特に農村から都市への移動を厳しく管理することを定めた戸籍制度は、その後党・中央政府が衣食住・就労・医療保障の分配をおこなう際の基準とされる。このことは都市住民・農村住民との間に、「農業戸籍」/「非農業戸籍」といった戸籍の性質の違いによる暗黙の不均衡を形成することとなった。改革開放政策が実施されると戸籍制度は、それが持つ問題が指摘され、社会的不平等を制度的に担保するものとみなされるようになる。そして、戸籍の区別を無くすことの必要性が、党中央政府によって認識されるにいたっている。

 しかしながら戸籍に基づく社会的不平等は、「農業戸籍」/「非農業戸籍」の差異のみならず、それらが登録された省・自治区・直轄市といった地域の差異をその基盤としつつある。すなわち、どこの地域で発行された戸籍を持つかが、移動先における社会的資源へのアクセスビリティーを左右するようになってきている。このことは、戸籍制度が地元主義を下支えする制度的基盤になりつつあることを示唆している。

 本報告では、戸籍制度が地元主義を下支えする制度的基盤として立ち現れることとなった社会経済的背景を、「戸籍制度」改革の先進地域である上海市を事例に、上海市が実施してきた外来流動人口に対する戸籍制度の変遷を追うことで明らかにする。

第3報告

グローバリゼーション時代のフィリピンの海外雇用政策
――船員職種に関する考察

越智 方美 (お茶の水女子大学)

 アジア有数の移民送り出し国である、フィリピンの海外雇用政策については、1990年代半ば以降顕著となった「移住労働の女性化」の視点から、既に国内外で多数の論考がみられる。本報告では、男性が多数を占める外航路線の船舶に乗務する船員職種に着目し、グローバリゼーションの進展がフィリピンの海外雇用政策に及ぼす影響ならびに、船員のジェンダー意識への含意について考察をおこなう。

 報告では、フィリピン人船員として外国船籍に就労することは、エスニシティーや技能に基づく差異化の過程であるという論点を提起する。即ち、グローバルな水準での船舶業界における就労をめぐる競争激化は、船内でのエスニシティーによる序列化を促すことにつながる。また、船員の技能に関する世界統一資格の設定により、船員は常に細分化されたカリキュラムに添った訓練を積み、技能の向上を求められることとなる。一方、このような状況が船員の性役割意識に与える影響は両義的である。国内に残された家族への送金を通じて、男性世帯主としての位置づけは変わらない一方、船上での職に就くためには「心配りができ、フレキシブルに働く」という家事労働者の女性たちに、頻繁に適用される言説を内面化するという側面もみられる。

 船員と家事労働者やケアギバー職種の送り出しの比較分析を通して、フィリピンの海外雇用政策における各職種の位置づけをあきらかにしたい。

第4報告

途上国での社会調査に関する一考察
――2005年カンボジア国除隊兵士調査から

東 佳史 (茨城大学)

 途上国の社会調査で日本国内での一般市民への調査と大きく異なる点は何であろうか?地域研究のバックグラウンドを持たない(つまり言語ができず、土地勘もない)研究者が途上国で社会調査を行う場合、日本での常識をそのまま持ち込みピントはずれなデータを持ち帰る傾向が強いのではないかという印象を筆者は常に感じてきた。

 2002年、筆者は国際機関のコンサルタントとしてカンボジア国除隊兵士の易学的統計データ分析に従事した。15000名の「現役兵士」が全国12の兵舎に集合して健康診断を受け除隊した。そのデータを分析した結果は不可解の連続だった。そして、筆者が推測したのはこの15000名の「除隊兵士」は実際、兵歴などない人々では?という素朴な疑問であった。つまり、自分は贋のデータを収集・分析したのではないかという疑念であった。

 カンボジア除隊プログラムはその政治性と巨額の予算故に、その透明性や信頼性は疑問視されてきた。巨額の予算を目当てに、多くの贋「除隊兵士」が一般から動員され、退職金やバイクが供与され、その多くが軍上官に吸い取られるという結末となった。

 筆者は2002年の15000名のデータを元に2005年に彼らを帰村地にて追跡調査した。その結果は多くの偽兵士の存在であった。世銀の除隊兵リスト分析の結果は死亡者と転出者を合わせても約3%の除隊兵士しか存在せず、政府リストには、2州の4つの郡で551名の除隊兵士が記載されているが、実際は79名の本当の兵士が存在したに過ぎない。つまりわずか14.3%が本当の除隊兵士であった。本発表では途上国での社会調査の現状と日本とのギャップをカンボジアを例にして考察したい。

報告概要

田嶋 淳子 (法政大学)

 第一報告「日本と韓国の宗教環境とプロテスタンティズム」(李貞植))はT.ルックマンの議論を土台として二つの社会の宗教環境を図式化し、プロテスタンティズムの受容プロセスの違いを指摘する。報告時間の配分に問題があり、主要な内容を報告できなかったことは残念であった。第二報告「ローカル化する戸籍制度−外来流動人口に対する上海市の戸籍制度改革を事例に−」(神山育美)は改革開放後の上海市において、戸籍制度が地元主義を下支えする制度的基盤として確立されていくプロセスを詳述した。ここでの問題は戸籍制度改革を地域戦略としてのローカル化ととらえることの妥当性である。フロアからは歴史的な状況との比較、他地域における動向との比較が必要との指摘がなされた。第三報告「グローバリゼーションとフィリピンの海外雇用政策 船員職種に関する考察」(越智方美)では、フィリピン人男性出稼ぎ労働者をとりあげ、外航路線に乗務する船員のフレキシブルな労働力としての側面に着目する。これまで船員は技能職として位置付けられてきたが、彼らをめぐる言説がケアギバーとしての介護職女性労働者と共通する側面があることを指摘する。従来の研究に新たな視点から示唆を与える興味深い研究であり、海運業界の再編というマクロレベルの変化の中で、フィリピン人労働者の位置付けが変化していく状況、送り出しとしての中国との今後の関係が示唆された。第4報告「途上国での社会調査に関する一考察−カンボジア国除隊兵士調査から−」(東史郎)では、世銀による2001年調査の失敗から、途上国における援助のあり方、multidisciplinaryアプローチの重要性が指摘される。調査設計のみならず、支援のあり方の問題として考えられるべき課題であることがフロアとの応答から示唆された。以上のように、本部会はアジアを対象とするテーマによる報告ではあったが、内容的にはまったく重なるところがなく、議論を重ねて展開することの難しい部会であった。

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