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年次大会
大会報告:第56回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第10部会)


第10部会:職業・世代・移動  6/22 10:00〜12:30 〔1号館1階109教室〕

司会:広田康生(専修大学)
1. メディアとしての市民活動 ─ 高齢者施設入居者の意思をめぐって 藤谷 忠昭(相愛大学)
2. 多摩ニュータウン開発の構想と現実――ある酪農家の除外運動と都市社会運動の連帯 林 浩一郎(首都大学東京)
3. 高齢者支援活動にみる在日朝鮮人女性の連帯とエスニシティ 徐 阿貴(専修大学)
4. 社会関係のエスニック化と日本社会の応答性
――外国人の政治参加をめぐるメディア現象
鄭 佳月(東京大学)
5. 在日ベトナム系住民の起業活動とネットワーク――料理店の事例から 平澤 文美(一橋大学)
第1報告

メディアとしての市民活動 ─ 高齢者施設入居者の意思をめぐって

藤谷 忠昭(相愛大学)

 NPOの中に既存の社会行動に対する評価活動を行う団体がある。たとえば環境評価であり、病院評価であり、行政評価であり「市民」の立場から意見を述べることを中心とする活動である。それらはボランティアにより労働提供はするものの、情報を労力の対象とし、既存の組織による枠組みを超え、情報を入力、出力することで一定の社会的機能を発揮している。このような市民活動を、ここでは情報を運搬する媒体の役割を果たすという意味でメディアとしての活動と位置づけてみたい。
 こうした活動は、これまで一般には実務労働提供型のNPOに比べ相対的に注目されてこなかったかもしれない。だが情報化が進展する中、着実に社会的成果を挙げてきた活動でもある。事例としたいO-ネットも、そうしたNPOのひとつである。特別養護老人ホームでの高齢者からのヒアリングにより施設の質の向上をめざすことで、入居者の要望・苦情を施設へ橋渡しする役割、「認知症」と診断された者の自己決定の在り方を社会的な文脈に位置づける機能などを果たしている。
 それらの成果を踏まえながらマスメディアでもなく、権限をもつメディアトゥールでもない、メディアとしての市民活動の意義についての分析を本報告では試みてみようと思う。これまで情報ツールの利用などに集約されてきたNPOと情報との関係を、インターネット全盛の情報社会という枠組みの中で改めてとらえ直してみたい。

第2報告

多摩ニュータウン開発の構想と現実
――ある酪農家の除外運動と都市社会運動の連帯

林 浩一郎(首都大学東京)

 多摩ニュータウン(NT)開発に抗い続けた酪農家集団の除外請願運動を通し、多摩NT開発政策と住民運動の展開を考察する。大石湛山(1981)はこの運動と都市労働者の連帯を考察した(「請願運動からみた都市問題としての農業・農村問題」「大都市居住環境保全と都市市民運動」『総合都市研究』12,13東京都立大学都市研究所)。だが、第1にそこでは請願文・議事録の分析に留まっていた。農民達がいかに開発を経験したかを捉え、その運動の共同性の内実を知る必要がある。第2に83年には酪農集約地として計画区域からの除外がなされた。この重要な展開を追う。
 筆者は、開発により多摩村で農地を喪失し、永山団地商店街で生活再建をはかった自小作農民の苦闘を辿った(「多摩NT開発の情景―実験都市の迷走とある生活再建者の苦闘」『地域社会学会年報』20)。(1)土地収用法を前に、多摩村の農民は土地を手放した。由木村の彼らはなぜ開発に抗い続けられたのか。(2)開発をめぐり、いかなる共同性の展開と拮抗が生まれたか。運動の中心人物の手記や新聞記事等から明らかにする。
 公社の買収攻勢時、オイルショックにより住宅金融公庫からの買収金が凍結される。70年代後半多摩・八王子市は13の革新自治体に囲われており、運動は共産党・職員労働組合、永山団地主婦等の住民運動と連帯していく。そして皮肉にも農業構造改善事業に乗れなかったことが、営農を禁じた日本版NTに酪農地を生み出した。

第3報告

高齢者支援活動にみる在日朝鮮人女性の連帯とエスニシティ

徐 阿貴(専修大学)

 在日朝鮮人が集住する地域では、2000年の介護保険制度導入を契機として、高齢者を対象とするさまざまな形態の支援活動が活性化している。介護保険による在日朝鮮人の社会保障制度への組み込みは、それが再生産領域というきわめてジェンダー化された領域に関わっているために、従来のジェンダー構造に対して必然的に影響を及ぼすものであろう。この点につき本報告では、東大阪における在日朝鮮人女性に特化したデイハウスでの参与観察および聞き取り調査の結果に依拠しつつ、検証しようとするものである。
 第1に、事例とするデイハウスでは1世、後続世代、ニューカマー在日朝鮮人女性を中心とする社会空間が創出されていることに注目するが、民族差別に加えてジェンダー差別により主流社会から排除されてきた女性たちを主体とする女性解放的な性格を持つこの空間が、公的制度を利用して実現したことを強調したい。第2に、とはいえこの空間は決して閉鎖的ではなく、主流社会との関係において次のようなことがいえる。異なる世代の間の女性たちは、朝鮮あるいは日本的なエスニック要素を相互に利用しつつ、日本の主流社会において主体を形成している。フランスの移民女性研究による〈女性仲介者〉の概念を援用しつつ、公的制度を基盤とする女性間の連帯の性格を、主流社会との関係において検討したい。

第4報告

社会関係のエスニック化と日本社会の応答性
――外国人の政治参加をめぐるメディア現象

鄭 佳月(東京大学)

 総務省統計局によると2007年の時点で,日本における外国人登録者が日本の総人口に占める割合は1.63%であり,この10年間で約1.5倍になっている。かかる状況を背景に,外国人の参政権をめぐっては,近時,国会の重要案件の一つであり,様々に議論されているところである。国際化が進む現代にあって,それは一国の政治の規範を損なうものではなく,むしろ多様な意見を反映させつつ,デモクラシーが進展し成熟していく過程として理解されるべきものであろう。しかし,急速に進む多民族社会化に対して,国家の論理と外国人の政治参加に関する原理的問題を論じることは容易ではない。国民主権の要請に加え,選挙は国家を前提とする制度として位置づけられているからだ。また,日本人/外国人の境界についても一考を要する。そこで本報告では,外国人の政治参加という問題を立てる端緒として,社会関係のエスニック化と日本社会の応答性について考察を行う。
 本報告ではマスメディアの領域と有識者の発言に関係する問題群に焦点化しながら,法的領域における学説の理解・判例の立場と比較対照することで,外国人の政治参加をめぐる日本社会の応答性について論を展開することを目的とする。その際,特にマスメディアの言説における議論の分裂や盲点および日本人/外国人の対置などの諸問題を指摘し,法的な解釈における認識からの転換を批判的に検討する。

第5報告

在日ベトナム系住民の起業活動とネットワーク――料理店の事例から

平澤 文美(一橋大学)

 移民の起業活動への着目は、相対的に不利な状況に置かれやすい移民が起業していく過程において、また事業の維持発展において不足する資源をどのような形で補っているかを見ることで、彼らのホスト社会とのかかわり方や同胞との関係など、それぞれのエスニック集団の特徴が浮かび上がってくるという点で重要である。
 本報告では、主にインドシナ難民として来日した人とその家族で構成される在日ベトナム系住民の料理店起業に注目し、資源の動員過程から見える彼らのネットワークのあり方を考察する。
 これまでの日本における移民の起業研究では、日本人配偶者の関与の重要性が示されてきた。在日ベトナム系住民の場合、日本人配偶者の協力も見られるが、調達すべき資源ごとに柔軟に家族、同胞、日本人ネットワークから支援を得て起業している。日本人ネットワークに関しては配偶者等に比べて比較的弱い紐帯と言える関係から有効な支援を得ていることも指摘できる。このような日本でのネットワーク構築に影響を及ぼしているのは、難民として日本へ定住していく特殊な経緯、在留資格、就労の状況である。本報告ではこれらの要素がどのようにネットワーク構築に作用したか、さらに資金、情報、労働力等、起業過程のどの場面でどのような支援が活用されたかについて言及する。
 在日ベトナム系住民の料理店起業者は決して多くはないが、報告者が2004年から継続して行っている料理店起業者への聞き取り調査のデータを分析し、報告を行う。

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