今期の部会Aでは、「ワークプレイス研究―働く経験へのアプローチ」を全体のテーマとして掲げ、研究活動を行っています。2018年6月のテーマ部会では、「医療現場で働くということ」に着目し、医療と社会学の在り方について広く議論する機会とさせていただきました。 医療化が進展し、私たちは生活のさまざまな局面で医療と関わりを持つようになっています。同時に、医療技術は日々進化し、患者も意思決定プロセスに関わっていくなど、変わりゆく医療現場で働く人々もさまざまな課題に直面しているはずです。では、この変化しつつある医療現場において人々は、どのようにみずからの実践を織り上げ、いかなる経験をしているのでしょうか。そして社会学研究は、その変化しつつある医療の実践や経験をどのように記述し、何を医療現場に還元することができるでしょうか。医療現場の変化を前に、社会学研究に携わる私たちもまた、改めてこうした課題に向き合う必要が生じてきているのではないでしょうか。 そこで本部会では、1)医療現場で働く経験とはどのようなものか、2)医療現場を調査・分析する方法にはどのようなものがあるか、3)社会学研究で得られた知見をどのように現場に還元していくか、に着目し、各登壇者にそれぞれのフィールド調査に基づいた報告をしていただきます。 第一報告をお願いしたのは、『小児がんを生きる―親が子どもの病いを生きる経験の軌跡』の著者であり、医療当事者たちの豊富な「語り」に基づきその経験を明らかにしてきた鷹田佳典さんです。第二報告は、エスノメソドロジーの立場から医療を含む様々な「ワークの研究」に携わってきた池谷のぞみさんです。第三報告は、『心の文法―医療実践の社会学』の著者であり、エスノメソドロジーの立場から、広く医療当事者たちの経験と実践を明らかにしてきた前田泰樹さんです。池谷さん、前田さんのお二人は『ワークプレイス・スタディーズ―はたらくことのエスノメソドロジー』にもご執筆されています。 討論者としては、『死にゆく過程を生きる―終末期がん患者の経験の社会学』の著者であり、社会学・生命倫理学の研究・教育を続けながら、医療現場の実践にも深くかかわっていらっしゃる田代志門さんをお迎えし、医療社会学の動向を踏まえた視点などから検討をいただきます。 医療および医療社会学にご関心のある方、働く経験へのアプローチにご関心のある方、質的調査の方法について知見を広げたい方、何らかの現場に社会学の研究を通じて貢献をしたいと考えられている方、エスノメソドロジーについて学びたい方など、個別のトピックを超えて、参加者の皆さまが日々の研究や実践のヒントを得られるような部会を目指しております。当日は、フロアからの質疑応答の時間もゆとりをもってもうけさせていただきますので、どうぞふるってご参加下さい。
討論者:田代 志門(国立がん研究センター) 司会者:中村 英代(日本大学)、森 一平(帝京大学)
(文責:中村 英代)
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