目次 テーマ部会 [Zoomによるリアルタイム配信]
部会要旨 |
社会調査士資格認定のための標準カリキュラムは、2003年以降社会調査協会およびその前身の社会調査士資格認定機構によって整備され、一定の標準化と質保証が実現されたといえます。テーマ部会Bでは、標準カリキュラム制定から15年以上が経過していること、および21世紀において調査に関する理論的・技術的イノベーションが相次いでいることを踏まえて、新しい調査法や研究のアプローチが、どのように研究実践の中で理解・活用され、社会調査教育に統合されているか、という問いを提起します。ディシプリンの変容に加えて、新型コロナ感染症によるパンデミックの長期化も新たに対処が必要な現実となっています。ライフスタイルの変化によって調査にもさまざまな影響が出ていることも含めて、調査法と社会調査教育の未来を模索することを本部会では目指します。
討論者:轟 亮(金沢大学) 石岡 丈昇(日本大学) |
報告要旨 |
データがつなぐ社会――社会調査教育は何をめざすか 盛山和夫(関西学院大学) デジタル化が進む中で、データサイエンスやEBPMの重要性が指摘されている。その一方で、日本社会のデジタル後進性は目を掩うばかりである。また、さまざまな統計不正が明るみに出るなど、社会的データの社会的意義についての認識の低さが露呈している。その点で、社会調査教育の重要性はますます高まっていると言える。ただ、社会調査の教育は、社会学という学問における実証的方法の基盤として長い歴史をもっているものの。今日では、時代の変化を背景に、新しい課題と使命に直面している。第一に、急激に進展するICT環境のもとで、Web調査やビッグデータなど、社会調査と統計分析における技術革新は著しく、それにキャッチアップする教育が求められている。これはとくに、大学院を中心とする専門家の育成で重視される。第二に、統計不正や国勢調査への協力の低下などの「社会調査の軽視」の風潮を克服して、社会調査とそれによる統計データが、現代社会を支える重要な社会インフラを構成していることへの認識を広めるという役割がある。そして、第三に、社会調査は人びとの生活実態や意識や価値についての「事実」を、データとして学術的および社会的に共有することを通じて、社会をつなぐ基盤をなしている。すなわち、今日の社会調査教育は、分断と対立を招く「フェイク・ニュース」や「post- truth」などに抗して、「共同の事実」のための教育を担ってもいるのである。 「社会調査実習」と自らの研究を重ね合わせる試み 辻 竜平(近畿大学) 社会調査士G科目(以下、「社会調査実習」と呼ぶ)は、担当教員にとってかなり大きな負担であることは間違いない。真面目に取り組むほど、教育効果は高まる一方、教員の負担も大きくなる。日常的な授業負担もある中で、どのように授業負担と研究時間のバランスを取るかは大きな課題である。私はここ10年ほど「社会調査実習」を担当しながら、自らもその調査データを利用し、それで紀要論文を1本程度書いてみようと取り組んできた。その方法とメリット・デメリットについて述べる。 社会調査教育における質的調査法―若手研究者の視点から 望月美希(静岡大学) 本報告では、社会調査教育のうち、特に報告者が専門とする質的調査法に関して、調査士カリキュラムにおける教育上の課題について検討する。報告者は、2003年以降に確立された調査士カリキュラムのなかで調査法を学んだ世代であり、専門社会調査士の資格を取得して就職活動に臨み、現在は大学教員として調査士科目の教育に携わっている。また、自身の研究アプローチとしては、現場に身を投じるフィールドワークを主軸に、インタビューや参与観察法などの質的調査を行ってきた。 |