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年次大会
大会報告:第53回大会 (報告要旨・報告概要:テーマ部会B)


テーマ部会B 「グローバリゼーションの中の階級・階層構造」
6/19 14:10〜17:25 [5号館・1階 5122教室]

司会者:橋本 健二 (武蔵大学) 伊藤 るり (お茶の水女子大学)
討論者:足立 眞理子(大阪府立大学) 園田 茂人(早稲田大学)

部会趣旨 橋本 健二 (武蔵大学)
1. 世界システムにおける階級変容
――グローバリゼーションと国際分業の転換のもとで―─
山田 信行(駒澤大学)
2. 世界システムの中の女性の位置 古田 睦美(長野大学)
3. グローバリゼーションと社会階層研究 佐藤 嘉倫(東北大学)

報告概要 伊藤 るり (お茶の水女子大学)
部会趣旨

部会担当: 橋本 健二 (武蔵大学)

 テーマ部会「グローバリゼーションの中の階級・階層構造」は、昨年度のテーマ部会「ジェンダー不平等の多面性」を引き継ぎながら、グローバル化する世界の階級・階層構造にまで視野を広げて、不平等問題に対する新たなアプローチを切り開くことを目的とするものです。

 グローバリゼーションの進展は、これまで暗黙のうちに国民国家の完結性を前提し、一国内の階級・階層構造が分析の対象とされてきた従来のアプローチの有効性に疑問を突きつけています。こうして世界的規模での階級・階層構造、国際労働移動と階級・階層間移動の関係、階級・階層とエスニシティの交錯などが、新しい重要な検討対象として浮かび上がっています。これからの階級・階層研究は、グローバルな視野と国際比較研究なしには考えられないといっても過言ではありません。階級・階層研究、エスニシティ研究、エリア・スタディなどが従来の枠を越えて対話することが求められているのです。

 本テーマ部会では、まさにこのような観点から研究を展開している3人の方に報告をお願いしました。階級・階層構造および労資関係を世界システム論的な視野から研究してきた山田信行氏(駒澤大学)、世界システムにおける女性の位置に関する理論的検討を行ってきた古田睦美氏(長野大学)、2005年SSM調査研究の研究代表者であり社会階層と移動の国際比較研究を進めている佐藤嘉倫氏(東北大学)です。さらに討論者は、フェミニスト政治経済学の専門家であり、とくにグローバル経済とジェンダーの問題に詳しい足立眞理子氏(大阪女子大学)、アジア地域の社会階層に関する国際比較研究を行ってきた園田茂人氏にお願いしました。テーマと顔ぶれからみて、現在望みうる最高の布陣を敷くとることができたと自負しています。従来の階級・階層研究、ジェンダー研究の枠にとどまらない、幅広い会員の参加を期待します。

第1報告

世界システムにおける階級変容
――グローバリゼーションと国際分業の転換のもとで――

山田 信行(駒澤大学)

 本報告では、グローバリゼーションの進展に伴って国際分業が転換しつつあるという認識に基づいて、ハイアラキカルに構成されている世界システムにおける各位置(中核、半周辺、および周辺)において、階級関係がそれぞれの位置に対応してとり結ばれる傾向が生じ、その結果それぞれの位置において階級・階層構造が動態化しつつあることを概観してみたい。

 まず、グローバリゼーション現象の一環であるとともにその一因として、1980年代後半以降の日本企業の本格的な多国籍化とそれに起因する競争の激化を位置づけ、その結果1980年代前半までを特徴づけてきた「新国際分業(New International Division of Labor, NIDL)」から「ポスト新国際分業(post-NIDL)」へと転換する可能性があることを指摘する。このような転換は、競争の激化に直面したグローバルに展開する資本による戦略的な拠点の再編に起因している。

 つぎに、post-NIDLへの転換が進展するなかで、世界システムの各位置における階級関係に現れる変化について検討する。グローバルな資本活動を主導するものは中核における資本であり、なによりもグローバリゼーションに伴う競争の激化は中核において端的に現れることになろう。「フレクシビリティ(flexibility)」という概念に集約されるような雇用の効率化と産業の再編、それに伴う労働者の階層分化と移民による雇用の代替などによって特徴づけられる中核における階級関係は、その現れとして了解できよう。post-NIDLへの転換は、多国籍企業の戦略的な拠点となった周辺社会における労働者の技能形成や新中間階級の形成を媒介として進展するのである。中核と周辺の性格をあわせもつ半周辺においては、双方の傾向が確認できよう。

 最後に、このような一般的に想定される傾向に関して、ローカルな特性をふまえたうえで、個別的な社会の事例を通じて簡単に確認することにしたい。

第2報告

世界システムの中の女性の位置

古田 睦美(長野大学)

階級とジェンダー
――フェミニストの議論の中で階級とジェンダーの関係はどのように扱われてきたか
ジェンダー差別と資本主義の構造的関連性
ジェンダー分業
家父長制と資本主義

C.Vonヴェールホフ、M.ミースの学説
女性地代
三階級説
主婦化――ジェンダーの線にそった国際分業構造の構造化
ペイド・ワークとアンペイド・ワーク

ある論争にかんする階級論的考察
エコフェミニズムの潮流
グローバルなパースペクティブの構築
サブシステンスと反システム運動
下からのグローバリゼーション
アンチ・エコフェミニズム
西洋的視点による過度な途上国賛美
「進歩」史観
 (3)論争から見えるもの――なにが対立しているのか

第3報告

グローバリゼーションと社会階層研究

佐藤 嘉倫(東北大学)

 本報告では、グローバリゼーションの2つの側面に注目する。第1は、国境を越えた人々の移動である。移動する人々の数が少ないならば、社会階層研究に対してそれほどの影響を与えないが、その数が大きくなると、社会階層研究に対して大きな挑戦となる。その挑戦は、従来の階層研究の方法論と理論の両方に関係する。従来の社会階層論は次の2つの前提のもとに研究を推進してきた。(1)人々は1つの社会の中で社会移動し社会階層を形成する。(2)社会の中に多くの人々に共有された階層の「望ましさ」が存在し、人々はより望ましい階層を目指す。グローバリゼージョンは第1の前提に対する方法論的挑戦を提示する。そして第2の前提に対しては理論的挑戦となる。これらの挑戦が階層論に突きつける問題を容易に解決することはできないが、そのような問題があることを分かった上で研究を進めることが重要である。

 グローバリゼーションの第2の側面は、それが社会の制度に及ぼす影響である。この影響は主に労働市場の流動化という形で現れる。日韓の社会移動を比較した結果、制度にはグローバリゼーションの影響を早くから受けるものとそうでないものがあることが分かってきた。そしてこの知見は、日本の制度を比較するだけでなく、日本と韓国の制度を比較することで、より明確になった。これは、グローバリゼーションと制度の関係を分析するためには、国際比較が不可欠であることの一例である。

報告概要

伊藤 るり (お茶の水女子大学)

 グローバル化する世界のなかにあって、階級・階層構造はどのように変容しつつあるのか、また一国社会を基本的枠組としてきた階層・階級研究はどのようにグローバリゼーションを背景とする不平等の問題に接近できるのか。本テーマ部会は、現代の不平等問題を考えるうえで、もはや回避できない問いでありながら、社会学にとって依然として多くの課題を残しているこのテーマに正面から取り組むことを目的として設定された。報告者には、世界システム論の立場から山田信行氏(駒澤大学)、世界システムと女性のアンペイド・ワーク論の観点から古田睦美氏(長野大学)、SSM調査研究、ならびに社会階層に関する国際比較研究を進める佐藤嘉倫氏(東北大学)の3名に、また、討論者として、フェミニスト政治経済学の立場から足立眞理子氏(大阪府立大学)と東アジアの社会階層研究の観点から園田茂人氏(早稲田大学)をお迎えした。

 山田報告は、世界システムにおける中核、半周辺、周辺の各位置における階級構造の流動化に注目しながら、新国際分業からポスト新国際分業への移行を多角的に検討したうえで、全体として中核と周辺の双方で半周辺化が進み、結果として半周辺ゾーンの拡大がもたらされているという見解を示した。次の古田報告は、マルクス主義フェミニズムを中心とした家事労働をめぐる議論をレビューしたうえで、ヴェールホフ、ミースらの学説を取り上げ、その「主婦化」過程の分析やサブシステンス・パースペクティブの意義を強調した。また、アジアの文脈との関連で、アジアの中間層によるフェミニズムにも言及し、こうした中間層が民主化の担い手となり、世界システムを支える「持続不可能な経済」モデルを覆しうるかどうかという点について疑問を投げかけた。佐藤報告は、人の国際移動の拡大という側面でグローバリゼーションを捉えたときの、社会階層研究にとっての方法論的問題、ならびに理論的問題を提起した。方法論的観点からは、国際移動をする者(たとえばグローバルな新中間層)を見落とす従来の階層研究のあり方、また理論面では、移民の出身背景測定と国際的職歴形成にどのように接近するかといった問題が検討された。また最後に、日本の場合、グローバリゼーションによって保護的制度は撤廃されつつあるものの、日本型雇用制度はそれほど弱まっていないといった点に見られるように、グローバリゼーションが制度に与える影響が一様ではないという点、またこうした制度の経路依存性に注目した研究において、国際比較が重要な意味をもつことが指摘された。

 熱のこもった3報告を受けて、まず足立氏からはポスト新国際分業の分析のなかに、企業だけでなく、世帯のトランスナショナルな展開を取り込む必要があること、日本型雇用制度の粘着性との関連で、制度間競争の問題、制度の慣性と日本の世帯主義との関連、階層だけでなくジェンダー視点の分析の必要性についてコメントがあった。園田氏はおもに中国をフィールドとする立場から、中国における80年代以降の「専業主婦」の意味の変化、外資系企業の進出の中でむしろ男女格差が拡大している事態についてコメントがあり、また制度の経路依存という問題に含まれるローカルな文化という局面を階層研究に取り込んでいくことの必要について指摘がなされた。

 このほかにも多岐にわたる議論が会場も含めて行われたが、全体として、グローバリゼーションの中での階級・階層研究の主要な課題が、ポスト新国際分業論、女性の不払い労働の位置づけ、社会階層研究における国際比較の可能性という、それぞれの立場から鋭く提起され、アジアという地域に根を下ろした研究の必要性ということについても多くを考えさせられる、有意義な部会であったと確信する。報告者、討論者、そして会場のみなさんの熱心な議論とともに、本部会の設計を主として担い、当日の司会でも活躍した担当理事の橋本健二氏(武蔵大学)の労にも、ひとこと感謝のことばを添えておきたい 。

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