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年次大会
:第71回大会 (テーマ部会B要旨・概要)


テーマ部会B 「テーマ部会B「新しい社会調査法と社会調査教育――新しい社会調査法と社会学におけるデータ――」

担当理事:渡邉 大輔(成蹊大学)、秋吉 美都(専修大学)
研究委員:内藤 準(成蹊大学)、齋藤 圭介(岡山大学)
部会要旨報告要旨 文責:秋吉美都
部会要旨

 テーマ部会Bでは、2022年度から新しい社会調査法を焦点とした研究例会や部会を重ねてきました。デジタル革命が生み出した、新しいタイプのメソッドに注目して、社会調査の実践と教育のあり方や社会学におけるデータをめぐる認識論を検討してまいりました。総集編にあたる本テーマ部会では、生理的データの活用や質的調査法の説得性の検討など、さまざまな方法論上の革新に取り組まれている報告者をお迎えします。
 第一報告者の井頭昌彦さんには、「質的研究手法のための理論武装の仕方を社会科学方法論争から学ぶ」と題し、ご編著『質的研究アプローチの再検討』(勁草書房 2023年)も踏まえて、量的/質的をめぐる方法論的論争の代表例としていわゆる「KKV論争」を概観する、という観点からご報告をいただきます。近年の因果推論手法の発展も織り込みながら、質的研究の意義を振り返っていただく予定です。第二報告者の清成透子さんには、「社会科学と神経科学の融合による新たな人間モデルの構築を目指した縦断的実験プロジェクトの紹介」というタイトルで、デモグラフィックデータ、各種経済ゲーム実験における行動データ、各参加者の脳構造の撮像、ホルモンや遺伝子の採取など生理的データの収集を2012年から2018年まで行ったプロジェクトの成果を紹介していただきます。故山岸俊男先生が代表を務められたプロジェクトでもあり、社会心理学で展開されている画期的な試みを伝えていただけると期待しています。第三報告の村上彩佳さんには「コミュニティの外にいる者の現地調査とインターネットツールの活用」というテーマで、フランスでの「パリテ」に関する調査における方法論上の工夫について報告していただきます。「フランス人でも政治家やその関係者でもない」調査者がいかにネット時代のツールを駆使してフィールドワークを展開したか、調査のノウハウにとどまらず、方法論上の考察もまじえての洞察を共有いただけると存じます。
 また、質的研究、量的研究いずれにも造詣が深い森いづみさんならびに数理的・計量的方法や分析的アプローチに通暁されている数土直紀さんに討論者を務めていただきます。報告者、討論者のお力を得て、さまざまな意味でダイバーシティに富んだ編成となりました。なお、この部会としては初めての対面での開催となります。みなさまのご参加をお待ち申し上げます。

報告者および題目:

質的研究手法のための理論武装の仕方を社会科学方法論争から学ぶ
井頭 昌彦(一橋大学)
社会科学と神経科学の融合による新たな人間モデルの構築を目指した縦断的実験プロジェクトの紹介
清成 透子(青山学院大学)
コミュニティの外にいる者の現地調査とインターネットツールの活用
村上 彩佳(専修大学)

討論者:森 いづみ(上智大学)、数土 直紀(一橋大学)
司会者:秋吉 美都(専修大学)

報告要旨

「質的研究手法のための理論武装の仕方を社会科学方法論争から学ぶ」

井頭 昌彦(一橋大学)

 社会科学においては、データや研究手法、あるいはそこからの知見を区別するラベルとして、「量的quantitative/質的qualitative」という対比がしばしば用いられる。両者の関係については、どちらかがより優れているということではなく、研究目的に応じて使いわけられる相互補完的なものとして理解するのが穏当な捉え方だろうし、それは、両手法の間でうまく分業体制を築けることが望ましいとされる社会学においては標準的理解となっているように思われる。
 他方で、昨今の学術的・社会的情勢が質的研究に対する逆風となっている側面もある。というのも、統計学の発展を背景とした統計的因果推論手法の洗練化と普及によって「量的」手法こそが方法論的スタンダードだという認識が広がり、データサイエンスやEBPsの隆盛もあって、質的研究の信憑性や意義に対して疑問を投げかける声が各所で聞かれるようになってきているからである。こうした方法論的圧力に対して若手研究者たちが《素手》で立ち向かわねばならないという事態を避けるためにも、それぞれの研究伝統ごとに異なる事情を踏まえた上で、適切な応答を整備しておくことは重要であると思われる。
 以上の問題意識を踏まえ、本報告では、量的/質的をめぐる方法論的論争の代表例としていわゆる「KKV論争」を概観し、質的研究に対してどのような批判が投げかけられ、どのような応答がなされてきたかを確認する。これは、それぞれの質的研究伝統ごとに異なるだろう応答の仕方を検討する上で重要な参考材料となるだろう。時間が許せば、そうした課題に対処する上での指針についても、科学哲学的観点からの提案をしてみたい。

「社会科学と神経科学の融合による新たな人間モデルの構築を目指した縦断的実験プロジェクトの紹介」

清成 透子(青山学院大学)

 報告者の専門である社会心理学に限った話ではないが、一つの学問領域で解明できることには限界がある。たとえば人間の心を科学的に理解するためには、学問領域の壁を乗り越え、興味関心を共有する関連領域(社会学や経済学、政治学などの社会科学、神経科学や内分泌学、進化生物学などの自然科学)の研究者との連携が不可欠である。本報告では、そうした学際的な共同研究の例として、社会科学と神経科学の融合に基づく新しい人間モデルの構築を目指した縦断的実験プロジェクト(故山岸俊男先生代表)の成果の一部を紹介する。このプロジェクトでは、東京都町田市周辺の住民を対象にリクルートを行い、1670名の応募者の中から各世代(20代から50代)男女同数ずつ抽出した一般人参加者約600名に繰り返し研究に参加してもらう形で実施した。デモグラフィックデータをはじめ、各種心理測定尺度への反応や各種経済ゲーム実験における行動データの測定に加えて、各参加者の脳構造の撮像、ホルモンや遺伝子の採取など生理的データの収集を2012年から2018年まで合計10回にわたって行った。ヒトの向社会性(利他性、協力性、共感性、互恵性等)について、これらのリッチな縦断的データ分析を通して得られた知見について報告・検討したい。なお、本プロジェクトで得られた縦断データは(随分先の話かもしれないが)いずれデータベースとして公開することを目指しており、社会調査教育の現場でも活用できるものになるかもしれない。

「コミュニティの外にいる者の現地調査とインターネットツールの活用」

村上 彩佳(専修大学)

 報告者は、フランスのジェンダー平等について、質的分析手法を用い研究を行ってきた。とくに、フランスにおいて選挙の際に候補者の数を男女同数にするよう各政党に義務付ける、50%性別クオータ制の「パリテ」が社会に根付く過程を研究している。パリテを推進する女性市民団体への参与観察や聞き取り調査、そして女性政治家への聞き取り調査を行ってきた。
 本報告では、フランス人でも、政治家やその関係者でもない、「コミュニティの外にいる者」である報告者が、調査対象にどのようにコンタクトをとり、データを収集したのかを述べる。また調査が困難な人物について、どのように補完するデータを得たのかについても述べる。
 調査を進めるにあたり、インターネットツールが役立った。自己紹介をするウェブサイトのURLを添付し、電子メールやSNSのメッセージを介して女性市民団体に調査依頼を行った。ラポールを築いた女性市民団体の紹介によって、政治家へのインタビューが実現した。政党の活動を知るために、党員以外も参加可能な政党集会にオンラインフォームから申し込み参加した。調査が困難な人物については、動画投稿サイト上にあるインタビュービデオや政治運動ビデオの分析を行った。上記のデータの収集過程を振り返りながら、新型コロナウィルスの流行以降、とくに重要性を増したインターネットツールを、コミュニティの外にいる者が活用する方法を考察する。

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