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年次大会
:第59回大会 (報告要旨・報告概要:テーマ部会A)


テーマ部会A 「反リスク・反排除の社会運動」  〔リバティタワー3階 1031教室〕

司会者:伊藤 美登里(大妻女子大学)、山田 信行(駒澤大学)
討論者:稲葉 奈々子(茨城大学)、飯田 泰之(駒澤大学)

部会趣旨 準備中
1. 「新しい公共」の臨界と311――社会的排除への抗いの構図と変容 仁平 典宏(法政大学)
2. Radiation ruling the nation――放射能汚染とコモンズ 渋谷 望(千葉大学)
3. 若年労働者の違法状態の分析――労働市場における諸制度との関係を中心に 今野 晴貴(一橋大学)

報告概要 準備中
部会趣旨

 準備中

第1報告

「新しい公共」の臨界と311――社会的排除への抗いの構図と変容

仁平 典宏(法政大学)

ゼロ年代を通じて格差が拡大し、貧困・社会的排除の問題が先鋭化したことは広く合意を得られている。だがその問題に抗う方向性を巡りいくつかの立場が並存した。ベーシックインカム、アクティベーション、「新しい公共」、経済成長、反グローバリズム――運動を主導するこれらの方向性は、何がリスクで何が排除かに関する観察をめぐり、先鋭な対抗軸を構成する。

このような中で、3月11日に起きた東日本大震災とそれに伴って生じた諸危機は、それまでの議論の前提を揺るがしたように見える。たくさんの命が失われ、現在も今後も多くの人の命が危機にさらされている中で、リスクや生に関するわれわれの認識や想像力の閾値は大きく変容した。この中で、ゼロ年代に形成されてきた生を巡る政治/運動の布置はどのように変わったのか/変わらなかったのか。そしてそれぞれの議論は、ポスト311の社会に対し、いかなる可能性を指し示すのだろうか。

本報告では、まず昨年のテーマセッションの論点も一部踏まえ、社会的排除の問題系を巡って、それぞれの立場によって賭けられていたものが何だったのか整理する。その上で、特に「新しい公共」論と呼ばれる視座に焦点を当てる。これは、市民セクターを社会のガバナンスのために積極的に活用を図る立場で、民主党政権はこの用語のもとで官民連携の枠組を作ろうとしてきた。これは、もともとは1990年代の参加型の市民社会論の系譜を引くが、ゼロ年代の文脈下でいくつかの重心移動を重ねてきた。特に運動論という観点から興味深いのは、ここでは既存の敵対性を帯びた「運動」よりも、NPOや社会的企業などの事業体が重視されるようになったことである。この視座では、排除やリスクはどのように捉えられるのだろうか。また311の支援活動において、NPO・NGOは大きな役割を果たしているが、これは今後の社会的包摂のモデルとなるのだろうか。そこでの課題と含意について考察したい。

第2報告

Radiation ruling the nation――放射能汚染とコモンズ

渋谷 望(千葉大学)

地震と津波にともなう福島第一原発の事故により放射能物質の大量拡散の惨事が生じた。災害は再生産領域における活動(とくに育児)と、生産のため活動(とくに賃労働)を同時に妨げ、両者を危機に陥れる。災害に直面する人々は一般に、再生産つまり生命の維持を優先せざるをえないとされる。だが現在のところ今回の放射能事故に関しては、災害からの復興の方向性として、再生産領域の保護は相対的に軽んじられ、生産活動の復興/再開が最優先とされているようにみえる。たとえば放射能汚染からの避難はきわめて限定され、食物の放射能汚染を不安に思う態度は「風評被害」を引き起すとして非難される。その一方で生産者のために「安全な」農作物を積極的に購入することが「復興支援」として称揚される。報告者にはこのことはきわめて倒錯した事態のようにみえる。

しかし日本において再生産領域を抑圧する態度は今に始まったことではない。周知のように、それは長時間労働を「美徳」とするエートスの歴史、その系譜は戦後の日本的労働慣行の歴史そのものであった。だが同時に今回の事故を経験した私たちは、この歴史が原子力発電の歴史であったことに気づかされる。さらには、その系譜は核兵器の開発と受容の歴史に行きつく。総じていえば、それらは開発主義の歴史である。

本報告は以上の問題関心から、開発主義をコモンズの抑圧として押さえたい。ここでいうコモンズとはさしあたり、再生産領域への関心をともなう、商品化されていない社会的な協働や生産として定義しておきたい。そのうえで本報告は、開発主義へのオルタナティヴとしての「労働の拒否」と「コモンズの取り戻し」を、アウトノミアおよびエコフェミニズムの諸議論を参照しながら論じたい。

第3報告

若年労働者の違法状態の分析――労働市場における諸制度との関係を中心に

今野 晴貴(一橋大学)

政策としてのベーシックインカムは、当然ながら雇用、福祉(現物給付)といった他の政策群との連関の中に位置づけられる。社会生活の最低限たるナショナルミニマムは、通常では労働市場における最低限の労働条件の保障と、これを補う福祉政策の両輪によって確保されてきた。しかるに、今日のベーシックインカム論を考察するに際しても、労働市場の現況の検討は有意義である。

本報告では近年注目が集まっている若年労働者に焦点を当てながら、第一に若者の職場における違法状態についての検討を行う。報告者が参加するNPO法人POSSEの労働相談、アンケート調査からは、5割以上の若者が職場の違法行為に対し「何もしなかった」と回答した。報告ではこうした若者の「諦念」が特に顕著で、かつ生活への影響が甚大な解雇の事案に絞り、労働相談から見える構図を経営側の論理から分類・分析する。

一方で、こうした違法行為を若者の側が「能動的」に受容する要因は、派遣や有期雇用といった労働市場における差別的諸制度に見出すことができる。そこで第二に、雇用形態による格差・差別構造が、安定しているとされる正規雇用を含む若年雇用全体に与える影響を考察する。

また第三に、直接的な雇用形態格差だけではなく、労働市場需給システムそれ自体が行為者に与える影響も見逃すことができない。特に競争システムたる就職活動は若年労働者の行動に顕著な影響を与えている。そのため、差別的制度と競争システムの複合が若年労働者の感性・行動に与える影響を考察する。

そして第四に、派遣・有期雇用労働を題材として、こうした共通原則の喪失による格差・違法状態の蔓延に対し、共通原則確立がどのように展望できるかを検討する。

以上を通じて、ベーシックインカムを論じる際の前提条件としての、労働市場における共通原則・最低限度規制の現況について問題提起を行う。

報告概要

準備中

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