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年次大会
大会報告:第57回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第4部会)


第1報告

「脱商品化」と矛盾しない移民の労働市場への統合 ――福祉制度への包摂を前提とするノルウェーの移民政策

岩ア 昌子(一橋大学)

 移民は一般に、ホスト国の労働市場に統合されていく過程で、安価な労働力として「商品化」されてしまう傾向にある。これは市場優先主義の米国等ではもちろんのこと、福祉国家である欧州大陸諸国でも同様である。 近年、EU諸国では、人道上の観点から、移民の労働市場への統合の要求圧力が強まりつつある。しかし、その結果、多くの加盟国では移民は十全の福祉を提供されないまま労働市場に統合され、「再商品化」されることとなった。その中でノルウェーは、 EU非加盟国でありながら、同じく移民の労働市場への統合を進めつつ、その一方で移民を福祉制度に包摂することで移民の「脱商品化」に成功している事例である。 移民を福祉制度の枠組に入れることは、他方で移民を労働市場から排斥し、社会保障の依存者としてしまう可能性を常にはらむ。ノルウェー政府はその自覚の下、移民を福祉の対象として保護したままでの労働市場への統合を実現させようとしている。これは移民を「福祉の受益者」から「福祉の提供者」に変えるワークフェアではあるが、ノルウェーの場合は移民とホスト国住民との平等を図りつつ、移民をノルウェー社会へ統合していくことを明確な目的とする点が、大きな特徴である。 エスピン=アンデルセンの「福祉レジーム論」は、従来の比較福祉制度論と異なり、欧州の大陸諸国と北欧諸国を異なる福祉レジームに分類しており、欧州における移民の「商品化」「脱商品化」の分析枠組として適している。そこで、本報告では、なぜノルウェーでは大陸諸国と異なり、労働市場統合の過程で移民を「脱商品化」させておくことに成功したのか、「福祉レジーム論」を手がかりとして解明していく。

第2報告

学校制服の着用意識に関する考察―大学生を対象とした質問紙調査をもとに

小澤 昌之(慶應義塾大学)

 大多和直樹によれば、1980年代までの学校空間における制服は、学校が生徒を集団管理するためのツールとして使われた一方、1990年代以降の制服は、流行の中心的存在としての記号を身につけるアイテムとして位置づけられるようになったとされる。実際にこの動きは、80年代に一部の私立校が有名デザイナーに依頼したことが契機となり、その後90年代以降に公立校へと波及したが、近年では制服を廃止した高校の高校生や、授業日でない日に買い物に行く中高生を中心に、好んで制服を着る現象が起きている。  関西圏の大学生等に制服の着用意識に関する実態調査を行った松田いりあによれば、制服着用に関しては制服指定の有無に関係なく肯定的意見が多数を占めた一方で、制服の着こなしに関しては多くの回答者が行っていたことから、学校やメーカーが制服にこめた価値や意義を、生徒は必ずしも意義通り受容しているとは限らないことを指摘した。確かにこの結果は高校生の日常生活に制服が浸透している証左といえるが、学校生活の内外で、その過程と制服のファッション化との関連性について詳細に検討する必要がある。  本発表では首都圏の大学生を対象とした意識調査から、制服の着用と生徒を取り巻く日常生活の意識との関連性を分析し、制服のファッション化が生徒に自明視された背景について検討する。具体的には制服着用の意識項目を中心に検討を行い、学校生活や家庭、本人の社会経済的地位との関係性についても分析を行う。

第3報告

遊興飲食業に従事する女性像の生成・変容の諸相

松田 さおり(宇都宮共和大学)

 本報告は、遊興飲食業に従事する女性の描かれ方の変遷の諸相を考察するものである。カフェー、社交飲食店、ナイトクラブといった遊興飲食店に従事した女性は、女性による接客サービスという極めて特化された役割を担い、独特の位置づけがなされるとともに、さまざまな形で社会的な注目を集めてきた。 本報告では、この女性への社会的な注目の集まりを、その呼び名の変化から、明治末期から昭和初期における「女給」、敗戦直後から高度成長期初期における「社交員」、高度成長期中期からバブル経済期における「ホステス」の3つに区分し、それぞれの時期における女性像のありようをたどる。 遊興飲食業に従事する女性は、「女給」の時期において当初「職業婦人」の一種として位置づけられた。しかしそれも昭和初期までの間に「まともでない」女性像へと変容していった。その変容は、遊興飲食店の爆発的な人気に対する風俗規制と結びついて起こったものであった。 この「まともでない」女性像は、その後の占領軍に対する特殊慰安施設協会の設立と結びついた形で展開した「社交員」の時期、さらに高度成長期における企業文化と密接に関係した「ホステス」の時期において、変化しつつも引き継がれていった。本報告では、これらの時期において企業社会の「コンパニオン」役としての「女」役割が付与されていく過程についても分析を試みる。

第4報告

非正規雇用・フルタイムで働く中高年女性たちにみる「仕事アイデンティティ」の危機 ――参与観察とインタビュー調査からの一考察

コ久 美生子(武蔵大学・愛知教育大学)

 基幹労働力としてフルタイムで就業しながら、有期契約で正社員とはその待遇に格差がある非正規労働者の問題に関しては、これまでにも多くの議論がなされてきた。だが、働き方が多様化し、派遣など異なった雇用形態が生まれる中、非正規雇用者の定義自体が流動的になっている。また非正規雇用者それぞれにとっての非正規雇用の意味も同一の文脈では語りにくくなっている。しかしながら、たとえ非正規雇用者の定義が流動的であり、働くことの意味に同一の文脈が見つけにくかったとしても、現実に非正規雇用でフルタイム就業する人々が日常業務で出会う困難には、共通の文脈があるのではないか。そして、当事者自身の語りの中から共通の文脈を探究することはできるのではないか。 本報告では、これまで非正規雇用でフルタイム働く中高年女性たちに実施したインタビューと参与観察をもとに、女性たちが日常業務におけるどのようなやりとりを通して、「仕事アイデンティティ」の危機に見舞われるのか、そしてその危機に対してどのような対応をするのかを紹介したい。その上で、女性たちが「仕事アイデンティティ」の危機に対してとる対応は、女性たち自身の職業意識とどのように関わるのかを検討したい。

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