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年次大会
大会報告:第57回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第7部会)


第7部会:文化・社会意識

司会:伊奈 正人(東京女子大学)
1. 日本文化論の不可能性ともう一つの日本文化論 林 三博(東京大学)
2. 第3のプラットフォーム−同人ゲームシステムの問題点と可能性 七邊 信重(東京工業大学)
3. 第三世代超高層における居住の論理 平井 太郎(無所属)
4. 非場所で発生する無関心に関する考察――ファストフード・レストランを事例に 本柳 亨(早稲田大学)
第1報告

日本文化論の不可能性ともう一つの日本文化論

林 三博(東京大学)

 戦後日本における大衆文化論の出発点たる、鶴見俊輔、武谷三男らの「思想の科学研究会」や桑原武夫らの「大衆文化研究グループ」などによる研究が、さまざまな相貌をもった個別具体的な研究対象に深く内在しつつ、科学的方法をもって大衆文化の基層をとりだそうと試みたことは周知のとおりである。そしてなによりもそれらの試みには、戦時日本の前近代的、非合理的かつ日常生活から遊離した日本文化論に対する抵抗や反省が含意されていた。 本発表の課題は、敗戦直後のこうした大衆文化論とそれ以後の文化論とのあいだの接続関係を再考することにある。まず、それら大衆文化論が旺盛に駆動しえたのは、(1)戦時的な日本文化論からの切断を行うという件の目的の一方で、(2)はっきりと名指されないがしかし戦時的な日本文化論とも通じあうなにかしらの外延が、とりだされた基層相互の向こう側に示唆されうるという期待を背後にしていたからだということを指摘する。次に、そうであればこそ、(2)を内蔵したその大衆文化論が、(1)の後退以後に戦時とは別種の形態の日本文化論が可能となる土壌を準備するという効果をもったことを明らかにする。

第2報告

第3のプラットフォーム−同人ゲームシステムの問題点と可能性

七邊 信重(東京工業大学)

 個人やサークルが制作する同人・インディーズゲームは、コミックマーケットをはじめとする同人誌即売会にとどまらず、委託販売ショップやダウンロード販売サイトのようなサービス産業と結びつきながら、販売・流通・評価されてきた。近年では、「The Queen of Heart」「月姫」「ひぐらしのなく頃に」「東方Project」のように同人誌即売会や委託販売ショップを中心に数十万本の売り上げを記録し、クロスメディア展開されるオリジナルタイトルも登場している。こうした同人・インディーズゲームが制作・販売・流通・評価されるシステムの存在感は、開発費の高騰や開発期間の長期化などを背景に行き詰まりを見せつつある日本の家庭用・PCゲーム産業にも、一定の示唆を与えうると考えることができる。  本発表では、申請者がこれまで同人・インディーズゲームの制作者(40名以上)に行ってきたインタビュー調査と、同人文化に関する先行研究のレビューに依拠しながら、同人ゲーム制作者やそのコンテンツの特徴、同人と商業の違い、同人ゲームが制作・販売・評価・流通されるシステムの問題点と可能性などについて社会学的な分析を行う。

第3報告

第三世代超高層における居住の論理

平井 太郎(無所属)

 本報告では、近年、東京を中心に急増した、超高層住宅(20階建て以上)における居住の論理に、生活史調査をとおした接近を図る。 日本における超高層住宅の供給は、80代末までの実験期間、その後10年の安定供給期、そして、02‐08年の大量供給期といった段階を経てきている。そこで、全体(約16万戸)の過半を占める最後のものを、「第三世代超高層」と名づけ、現代都市に固有の現象として注目する。これまで、第三世代超高層については、都市再生や技術革新といった供給側の論理だけでなく、受容する居住者にも焦点が当てられてきた。しかし、20、30代のDINKSや団塊退職者といった属性がとりだされてきたものの、それらは全体の3割を占めるにすぎない。その意味で、第三世代超高層に、いかにして住むかを規定するのは、世代やライフ・サイクルなどとは異なる論理であると推測される。 そこで、報告者は、世代やライフ・サイクルなどを相対化する時間意識を明らかにすべく、第三世代超高層の居住者に、過去の来歴と将来の展望とを聞き取る、生活史調査を行なった。その結果、年齢や性、階層差などを越えて、現在を、東京の20世紀における展開の延長に位置づけ、主として土地をめぐるマネーゲームを肯定する意識が広く見られた。こうした独特の時間意識が、生活上の問題を「リスク」概念をとおして把握する傾向をもたらし、さらに、子どもをふくむ血縁や地縁などにたいする忌避、物質としての超高層住宅の将来にかんする無関心といったさまざまな現象が、派生してきていると考えられるのである。

第4報告

非場所で発生する無関心に関する考察――ファストフード・レストランを事例に

本柳 亨(早稲田大学)

 マクドナルド化、ファスト風土化、郊外化という言葉が象徴するように、場所の固有性を喪失した「非場所」と呼ばれる消費空間が今日拡大している。非場所の代表であるファストフード・レストランでは、一見すると無礼ともいえる行為――たとえば「人前で化粧をする」「あぐらをかいて座る」など――が展開されている。しかし、他人の目を気にしない、自由気ままな人間の集う場が、ファストフード・レストランなのではない。無礼を誘発する状況と、その無礼を許容する二つの状況が共存する場、それがファストフード・レストランなのである。本報告では、利用者の無礼を誘発する要因でもあり、許容する要因でもある、非場所の無関心について考察する。 ジンメルの「大都市と精神生活」によれば、無関心を装うことで相手の個性を平準化する行為は、都市で暮らす人間に特有の心的態度である。同様に、ファストフード・レストランの利用者の心的態度も無関心であるといえよう。都市空間とファストフード・レストランは、無関心を媒介としながら見知らぬ他者との匿名的な関係を維持するという点で共通している。しかし、前者の無関心が「その場の焦点を構築する行為」であるのに対して、後者の無関心は「その場の焦点を前提とした行為」である。では、ファストフード・レストランで発生する無関心が前提とする「場の焦点」とは何なのか。 本報告の目的は、非場所における「場の焦点」に着目しながら、ファストフード・レストランで発生する無関心の特異性を明らかにすることである。

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