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年次大会
大会報告:第58回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第1部会)


第1報告

寄り添う者によって出版された闘病記分析の試み―妻の病いの軌跡を夫が闘病記のなかで語るとき

野口 由里子(法政大学)

近年、"寄り添う"ということが特に看護やケアの分野で着目されている。これは、これまでのように「病いの経験」や「病うということ」を病う人々だけでとらえるのではなく、例えば家族のような病う人々と共に生きている人々へと焦点をあてていこうとする試みである。

そこで本報告では、病う者に寄り添う者(ここでは特に配偶者)が出版した闘病記を分析し、病う者とは別様に混乱させられた生活史がどのような過程を経て、寄り添う者の生活史として紡がれていくのかを考察する。なお、本報告では、様々な寄り添う者の中から夫に焦点を絞り、夫によって書かれた闘病記を分析していく。それによって、家族における妻(または母親)という役割を担っていた女性が闘病するという軌跡を寄り添う者(夫)として、さらにその証言者としてどのように解釈し、意味づけていくのかを浮上させることを目的とするものである。

第2報告

エイズ電話相談活動における、電話相談ボランティアの「当事者性」

岩橋 恒太(慶應義塾大学)

1980 年代初頭に登場した HIV/エイズは、当初、「未知の奇病」として人びとの関心を集めていた。しかし、1996 年の薬害エイズ訴訟和解をその関心の高まりの頂点として、次第に人びとの関心は失われつつある。関心が薄らぐ一方で、厚生労働省の報告によれば現在、HIV陽性者の数は 15,000 人以上と報告され、新規でHIV陽性とわかる人の感染ルートは主に性感染、特に男性同性間の感染が約 6 割を占めている。

そうした状況のなかで、HIV の感染不安に関する相談や陽性者からの相談をあつかう電話相談は支援活動として、1980 年代から日本でも始められた。相談の話題が、治療法が確立していない病であったり、性の問題に関わることであったりすることなどから「医療の専門家ではできないサポート」が目指され、「ピアであること」、「(相談者の価値観に)ノンジャッジメンタルであること」などの条件をもとに相談が実践されてきていて、現在でも多くのボランティアによって全国で活動が行われている。

報告者は、1994 年よりエイズ電話相談活動を行っている団体 L に、参与観察と電話相談ボランティアへのインタビュー調査を行っている。本報告では相談員の語りから、HIV/エイズについていかに意味づけて活動に参加・継続をしているのかについて検討し、電話相談ボランティアの「当事者性」について検討したい。なお当日は、インタビューで得た具体的なデータをもとに、報告を行う。

第3報告

日本におけるHIV/AIDSの言説と古橋悌二の「手紙」[PP]

竹田 恵子(お茶の水女子大学)

本報告の目的は、1980年代から1990年代前半までの日本の行政やメディアにおいて「男性同性愛者」とHIV/AIDSがどのように語られてきたか言説分析を行い、それらに対抗するクレイムとして1990年代前半の「男性同性愛者」の言説と日本を代表する現代美術作家の古橋悌二の言説比較を行うことにより、古橋の言説の独自性を明らかにすることである。

「男性同性愛者」は当初から行政、メディアのAIDSの言説にあらわれることは少なかった。しかしながら、「男性同性愛者」を含む性行為による感染者と血液製剤による感染者の取り扱いの差異が前者に不利な形で見られた。

HIV/AIDSに関する社会的偏見に直面した「男性同性愛者」の対処方法は大きく三つに分類できる。まず第一に、自らが「男性同性愛者」や「HIV感染者/AIDS患者」であることを明示しないパッシングという戦略である。第二には、HIV/AIDSに関する偏見は社会問題であるとした上で、以上のようなアイデンティティを肯定的に受け入れ、積極的に明示するカミングアウトという方法である。第三の古橋の対処方法は、HIV/AIDSに関する偏見は社会問題であるとし、対抗クレイムを提示した点で第二のカミングアウト派と共通しているが、自らのアイデンティティを「アーティスト」とした点で独自性がある。本報告では古橋の「手紙」もデータにしながらその独自性を分析したい。

第4報告

接骨院における医療面接場面での社会的相互行為[PP]

海老田 大五朗(東京医学柔整専門学校/東京福祉大学)

 本報告の目的は、接骨院における医療面接での社会的相互行為を観察、分析することによって、医療面接における社会的相互行為の意味がどのように構成されているかを記述し、接骨院における医療面接ではどのようなことがなされているかを報告することである。

 本報告では、可能な限り自然場面の自然言語を分析することにこだわった。本報告で使用するデータは、2009年10月、関東地方のある接骨院にて、柔道整復師と患者の医療面接における社会的相互行為場面を、私が直接ビデオ撮影した映像データである。

 この映像データをいわゆる相互行為分析(会話分析)的手法によって分析する。本映像データを分析してったところ、「どのようにして患者から新たな情報が引き出されるのか」、「どのようにして問題発見の語りは成し遂げられていくのか」、「身振り手振りなどはどのようになされているのか」などが、構造化され、特徴付けられてみえてきた。本データに含まれる、接骨院における医療面接場面の背後にある「見られてはいるがしかし気づかれない」ものについて、Goodwin,C.、Halkowski,T.、Kendon,A.などの先行研究をふまえつつ報告する。

第5報告

「婚活ブーム」に関する言説分析――「性役割分業」への回帰現象に対する応答分析――

開内 文乃(無所属)

婚活という言葉は『「婚活」時代』出版と同時に広まり、2008年、2009年の2年連続で流行語大賞にノミネートされることとなった。この流行によって、新聞、雑誌等で婚活に対して様々な意見が述べられた。本発表ではこれらの意見がどのような立場から述べられているかの分析を試みる。分析に使用した記事は2008年3月から2010年2月末までで、タイトルに婚活という言葉が使われているもの、もしくは婚活について特集した新聞、タブロイド誌、雑誌である。

婚活という言葉は山田と白河が「社会経済状況が変化しているにもかかわらず、意識そのものは昔とそんなに変わっていない」ために、「結婚したいのに結婚できない人が増えている」ことを問題にし、名付けたものである。しかし、婚活の意味はリマーショック後の不況の影響を受けて、現在、女性が不況にもかかわらず安定して高い給料を手にしている男性を獲得する活動へと変質してしまっていることが言説分析により判明している(開内2010)。婚活に対する意見を分析すると、そのほとんどが意味の変質した婚活に対して行われていた。そして、その中身は山田と白河と同様に旧来型の性役割分業を前提とする結婚は現状に見合っていないという前提にたっている。これらを分類すると、(1)現状に見合っていない結婚のために婚活をするべきではない (2)現状に見合っていない結婚は現状をふまえ、婚活すべき (3)結婚相手をみつける確率をあげようとする婚活はかえって効率を悪くする、という三つのパターンになった。

以上、この三種類の内容を検討すると、これらは結婚という制度をどのように考えるかの対立ではあるが、旧来型の性役割分業に基づく結婚を前提とする婚活を否定している点では一致していることが判明した。これによって、婚活の現状が性役割分業を肯定していることが逆に明らかになった。

文献 山田昌弘・白河桃子 2008『「婚活」時代』ディスカヴァー・トゥエンティワン
開内文乃2010「婚括ブームのふたつの波―ロマンティック・ラヴの終焉―」山田昌弘編『婚活現象の社会学』東洋経済新報社所収(予定)