HOME > 年次大会 > 第59回大会(報告要旨・報告概要) > 自由報告 第7部会
年次大会
大会報告:第59回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第7部会)


第1報告

メディア接触と政治家に対する意識の実証的検討

鈴木 努(東京工業大学)

カペラ&ジェイミソンは『政治報道とシニシズム』において政治家の言動を戦略として描くメディアのあり方が有権者の政治家とメディアに対するシニシズムを生じさせることを指摘している。メディアに戦略型の報道があふれているならば、メディア接触はシニシズムを助長すると考えられる。しかし政治的な争点に関する分析的な情報もメディアを通じて得ることができるという面を考えれば、メディア接触にはシニシズムを抑制する働きもあると考えられる。本報告では、政治や政治家への信頼が、メディア接触とどのように関連しているかを実証的に検討する。

分析に用いるのは国際社会調査プログラム(ISSP)の公開データISSP2004(Citizenship)である。この調査は日本では「市民意識についての国際比較調査」としてNHK放送文化研究所によって行われた。調査項目には政治家への信頼のほかに政治参加、メディア接触、対人関係などが含まれており、社会経済的属性を含めて多変量解析により政治的シニシズムを生じさせる要因について検討することができる。報告では日本においてもメディアとシニシズムの関係が成り立つか、シニシズムと市民意識および政治的態度・行動の関係、シニシズムと市民意識の構造などについて実証的に分析した結果を示す。

第2報告

エーリッヒ・フロムの民主主義的社会主義に関する一考察――教育の規範理論を再定義する手掛かりになるのか?

金子 聡(東京都立大学)

 1963年、教育学者の堀尾輝久は教育における正義の原則を提示した。それはマルクス主義の影響を強く受けたものだったが、現在でも日本の教育の規範理論の一つの到達水準を示している。それは平等、公正、機会均等の原則から構成され、当時、平等は階級の廃止として定義された。しかし、筆者は現在では同原則は幾つかの挑戦を受けていると考える。@1989年の冷戦終結以降、現存した社会主義/共産主義国の多くは崩壊したこと。A1971年のジョン・ロールズ『正義論』出版以降、特に英語圏で正義や平等などの規範理論研究が急速に進展したこと。B冷戦末期以降、差異の承認要求も強まっていること。

 堀尾はリベラル派と評価されているが、ロールズ以降と以前ではリベラリズムの意味も異なる。そのポイントは、善(goodness)の多元的分裂を前提にするか否かである。ロールズなどは善き生の構想は個人に委ねている。

 本報告ではフランクフルト学派第一世代のエーリッヒ・フロムの民主主義的社会主義を取り上げる。

 フロムに注目する理由は二つある。@崩壊したソ連型とは異なる社会主義を目指していたこと。A彼の積極的自由、特に愛の思想は差異の承認要求に応答し得るものであること。

 但しフロムの積極的自由には卓越主義的傾向も見られる。その点については政治学者のアイザイア・バーリンの批判が有名である。そこで本報告では教育の規範理論を再定義する上でフロムの民主主義的社会主義は有効な手掛かりとなるのかを、主に積極的自由の問題に焦点を当てて考察する。

第3報告

1980年代以降の日本における都市計画政策の展開――都市空間の間接的コントロールへ向けた都市計画政策の「適合化」過程の考察

植田 剛史(一橋大学)

2000年代の東京では、密集市街地の再開発や工場跡地の用途転換に伴って超高層建築物が相次いで竣工し、都市空間はかつてない規模で再編されてきた。既存の都市研究の多くは、こうした都市空間再編の「円滑な」実現を可能にした諸条件の成立を、「中曽根民活」から「都市再生」政策へと至る一連の規制緩和政策によって説明してきた。しかし、この間の都市計画政策を振り返ると、規制緩和のほかに地方分権化、「参加」制度の整備などが同時に進行してきたことがわかる。一見相反するこれらの政策展開は、いずれも、都市空間をより間接的にコントロールする新たな枠組みに向けて都市計画政策を「適合化」する試みとして位置づけられるのではないか。そして、2000年代東京の都市空間再編の「円滑な」実現は、ただ規制緩和政策によってというより、むしろ、この都市空間の間接的コントロールの枠組みの下でこそ可能だったのではないか。

本報告では、1980年代から2000年代にかけての日本の都市計画政策の展開をたどり、都市空間の間接的コントロールに向けた都市計画政策の「適合化」過程について考察する。そのため、この間の都市計画関連の政策文書を体系的に収集・分析し、とりわけ、郊外の新都市開発から既存の都市空間の再開発へと開発行為の重心が移動したことをうけて都市空間のコントロール技術の転換がいかに構想されてきたのか、明らかにする。

第4報告

自然採取を内包したカニ養殖業――中国安徽省興永村を事例とした半栽培(セミ・ドメスティケイション)研究

平井 勇介(早稲田大学)

 近年、「半栽培」という概念が、自然環境保全との関連で注目されている。半栽培とは、一般的に人間が少しだけ特定の動植物に手を加えることによって、結果として、その特定の動植物の収穫量を増やす、一種の自然の利用形態と考えられている。こうした半栽培の自然利用形態が、自然環境保全の文脈で注目されてきたのは、主に二つの理由があろう。ひとつは、半栽培的な自然をほどよく管理する経験や知識は、自然を「管理」の対象とは考えず、「折り合う」対象として考える環境政策に適合的であるためである。もうひとつは、環境政策の現場では、自然とかかわり続けてきた地域の人びとが政策に参画することが望まれており、地域の人びとが協力しやすい環境政策とはなにかを考える必要が生じているためである。そのため、地域の人びとになじんだ環境政策を考案する上で、半栽培的なかかわりが注目されだしたのである。

 ところで、中国安徽省の蟹養殖業を調査したところ、技術革新が常に試みられている養殖業という新しい水産業の中に、半栽培的な事柄がかなり入っていることが判明した。自然採取に少し手を加えるに過ぎない半栽培の知識を、養殖業に導入することにどのような意味があるのだろうか。本報告では、この問いを解くことを通じて、環境政策に役立つ半栽培研究の在り方を検討したい。

第5報告

WTOドーハ閣僚会議前後における組織間連携の展開――医薬品アクセスをめぐる二つのNGO団体による提言活動を対象として

〇冨永 京子(東京大学)・大澤 傑(上智大学)

 本発表では、国際会議という政治的機会が、その抗議行動・提言活動に対してどのように変化を及ぼすのかを問う。事例として、「WTO閣僚会議」にて採択される、知的財産権をめぐる国家間協定である「TRIPS協定」に対する、NGO「Oxfam」と「国境なき医師団」、それぞれの抗議行動を取り上げる。とりわけ、国際会議の決議内容によって、両者の抗議行動における「組織間連携の形態」「レパートリー」「問題設定」の三点が、どのように変化するのかに注目して分析を行った。分析の結果、TRIPS協定の内容が部分的に変更される「ドーハ特別宣言」の採択を機に、両者の連携する組織・レパートリーは増加し、問題設定もまた変化した。以上の変化が起こった原因として、ドーハ特別宣言以降における、NGOからWTOに対するロビイングへの必要性の高まりがある。効果的にロビイングを行う為に物質的資源・非物質的資源の双方を集める必要があるため、両NGOは、その資源調達のために連携する組織・レパートリー・問題設定を変化させる必要があったのだと考えられる。

 本研究は、国際会議におけるNGOの提言活動に対し時系列から分析することによって、政治的機会が直接的・間接的に運動を構成するどのような要素に対し、どのような過程を経て影響を及ぼすのかを明らかにするものである。