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年次大会
大会報告:第56回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第3部会)


第1報告

中国残留孤児二世のアイデンティティ
―ライフストーリー研究から

張 嵐(千葉大学)

 本研究は、中国残留孤児二世に対してライフストーリー聞き取り調査を実施し、彼らの多元的なアイデンティティを見出すことを目的としている。これまで、筆者は残留孤児一世に対して生活史調査を実施し、彼らのアイデンティティのあり様を考え、彼らのライフストーリーを把握する試みとした。本研究では、残留孤児の全体を捉えるには、忘れてはならないもう一つの重要な課題―残留孤児二世の課題を中心にして、調査および分析を行う。残留孤児の全体像を、世代、生活史上の経験、ナショナルな帰属意識の相関に注目して、アイデンティティの視点から捉え直したい。そのため、以下の二点に注目してインタビューを行った。第一に、生活様式、価値観、社会習慣の違う「外国」へ「移民」としての残留孤児二世が日本という異文化の中でどのような日常生活を営んでいるか、どんな問題に直面しているのか、どのように乗り越えているのかを探ること。第二に、中国と日本を生きぬく彼らが自己に対してどのような定義をしているのかに注目して、このような彼らの心情が語りの中にどのように映し出されているかを解釈すること。日本における残留孤児についての研究は、ほとんどが日本人の研究者、また残留孤児の関係者、二世たちが行なってきた。その上、残留孤児二世のアイデンティティに関する研究は、これまで、ほとんど彼らのアイデンティティの葛藤と危機に注目してきた。本研究では、ライフストーリー調査研究の中から「調査者の違いによって語られ方に変化は生ずるのか」という、〈語られ方〉を捉えることに重点を置き、中国人留学生である調査者が十人前後の残留孤児二世に対する聞き取り調査を実施した。中国人として彼らの気持ちを聞き出そうと試み、彼らの多元的なアイデンティティを捉え直したことは本研究の特色となっている。

第2報告

原爆の記憶を継承するということ
-- 長崎における生存者へのインタビュー調査を手がかりに

高山 真(慶應義塾大学)

 報告者は2005年春から長崎において、原爆被災の生存者を対象としたライフストーリー・インタビュー調査を継続的に行っている。現在、調査に中心的にご協力いただいている3名の方々は、一般に語り部として認識されている活動に取り組まれている。現在の長崎において語り部活動は主に、長崎市が出資する「官民が一体となった任意団体」の長崎平和推進協会と、民間の長崎の証言の会の二つの組織によって運営されており、活動に参加する生存者は約60名である。
 語り部活動の目的は「核兵器の廃絶」、「平和の実現」あるいは「被爆体験の継承」とされており、活動に参加する生存者たちの多くは、自らの被災前後の経験にまつわる記憶に基づいた語りを、この目的に沿う形で、学校教育の一貫としての平和学習とよばれる場で語ることを活動の中心とする点を共通認識としている。
 しかし、1970年代後半に始まった語り部活動は、生存者の高齢化による幼少期に被災を経験した人々の活動への参加により、「被爆体験の継承」という目的に関して「どのように継承するのか」という議題をめぐり、参加者内部において見解の異なりが生じつつある。本報告では、この議題に関して、一見、異なる見解を示す二人の生存者へのインタビュー結果を資料とし、彼らのライフストーリーを詳細に検討することを通して、原爆の記憶を「継承する」とはいかなる営みであるのか、という問題に関する一考察を試みたい。

第3報告

ゲイネスと生活の折り合うところ
――AA(アリコホーリクス・アノニマス)に通うあるゲイ男性の語りから

今野 卓(立教大学)

 AA(アリコホーリクス・アノニマス)に通うあるゲイ男性の語りから、日本社会における多くのゲイ男性が依然として様々な困難を抱えながら、ゲイネスを全うするために、どのように生活していけばよいか、という問いに対してどのような視点が必要か考察する。
 まず、このゲイ男性の語りから、ゲイ男性が抱える複合的なスティグマ、具体的には、アルコール依存症のみならず、薬物依存症などの問題を抱えながら生活が破綻していく様相を明らかにし、そうした破綻した生活にはゲイネスとの折り合いの問題があることを述べる。
 また、こうした破綻した生活のなかでも、ゲイ・コミュニティや異性愛者とのサポーティブな関係、親兄弟との関係などを述べる。
 そして、この男性が日本におけるゲイ・リベレーションが盛んになり始めた1990年代初頭に20歳前後であり、ゲイネスへのこだわりが強く、理想とする日本のゲイ・コミュニティのあり方と現実のゲイ・コミュニティや自らの行動とのギャップに悩みながらも、「生活者としてのゲイ」として、どのように生きていけば良いのかという葛藤を明らかにする。

第4報告

旧東ドイツの社会科学者が経験した『ドイツ統一』
――ベルリン・フンボルト大学を事例としたインタビュー調査

飯島 幸子(東京大学)

 ベルリンの壁崩壊(1989年11月8日)の衝撃から1年を経ずして1990年10月3日、ドイツは統一を迎えるに至った。東西ドイツの政治的統一により、主として東側の社会システムは様々なレベルで西側システムへ「転換(Transformation)」するための手続きを短期間に迫られていく。大学もしくは学界の領域もこの例に洩れず、1990年代初頭を中心に「新連邦州(Neue Bundesländer)」の各地で「大学改革(Universitätsreform)」の名の下にドラスティックな構造変換が断行されていった。
 そうした中、本研究はベルリン・フンボルト大学(Humboldt-Universität zu Berlin)の社会科学研究科(Institut fur Sozialwissenschaften)を事例とし、1990/91年冬学期の時点で前身である2部署、社会学研究科(Institut für Soziologie)および社会科学・政治学専攻(Fachbereich Sozial- und Politikwissenschaften)に在職した研究者を対象に、彼らの学術・職業上のライフヒストリーに関する聞き取り調査を実施した。これまでのインタビュー調査で得られた18件の事例を概観するとともに、『ドイツ統一』が彼らに何をもたらしたか、一次分析結果およびそこから導かれる主要な論点について報告する。

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