HOME > 年次大会 > 第55回大会(報告要旨・報告概要) > 自由報告 第4部会
年次大会
大会報告:第55回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第4部会)


第4部会:家族・ジェンダー  6/16 14:00〜16:30 〔1B棟・3階 1B308講義室〕

司会:出口 泰靖(千葉大学)
1. 看護職における医療化・ジェンダー化・職業化と女性のハビトゥス・プラティック 佐藤 典子(東京大学・慶應義塾大学)
2. 子育て支援NPOにおける「ケアラーとしての男性」
堀 聡子(東京女子大学)
3. 結婚相手にもとめる条件にみるジェンダー差と地域差
――『北京晩報』と『新民晩報』の結婚相手の募集広告の分析

王 岩(首都大学東京)
4. 家族・仕事・アイデンティティ――パート主婦にみる女性たちの社会意識 徳久 美生子(武蔵大学)
5. 家族介護に必要な連続休暇と介護休業 池田 心豪(労働政策研究・研修機構)

報告概要 出口 泰靖(千葉大学)
第1報告

看護職における医療化・ジェンダー化・職業化と女性のハビトゥス・プラティック

佐藤 典子(東京大学・慶應義塾大学)

 本研究は、看護職の担い手の多くが女性であることと看護職の関係についてフランスの事例を中心に歴史的に明らかにするものである。現代の看護が日仏を問わず、多くの文化圏で女性が行う職業であり、社会においても自明視されている点について、看護職と女性らしさを結びつけていく過程をブルデューの「ハビトゥス」概念をもとに考える。

 研究の手法は、19世紀のフランスの女医A・E・アミルトンによる世界各国の看護を比較研究した博士論文(1900)と看護の歴史について記した著書(1901)を中心に当時の思想家、医師たちが記した著書、看護学校創設の記録などから、当時の人々が看護をどのようにとらえ、近代看護と女性がいかにして結びつくようになったのかを検証する。

 そもそも、第三者による看護のルーツは、当初、男性騎士修道士によって行われ、19世紀までは男性修道士だけでなく、多くの男性が看護にたずさわってきた。しかし、19世紀末から20世紀にかけて、看護が女性にふさわしい行為であるという言説が多くの地域で広まり、看護の担い手とりわけ、職業看護の募集において、看護学生や見習いたちの性別が女性に限定されるようになる。このように看護が近代化の過程でジェンダー化されることと看護が「女らしい」という点で評価されるようになることのつながりをブルデューのセクシュアリティ研究や行為理論から考察したい。

文献:『看護職の社会学』専修大学出版局2007佐藤典子

第2報告

子育て支援NPOにおける「ケアラーとしての男性」

堀 聡子(東京女子大学)

 近年、ジェンダー平等の視点からケアの領域についての検討が進むなかで、「ケアラーとしての男性」への関心が高まりつつある。「ケアラーとしての男性」に関しては、これまで主に、家庭における父親を対象とした研究や、男性保育士などの職業としてのケアラーに注目した研究が蓄積されてきた。しかし、現在では、家庭や職場におけるケアラーに加えて、地域コミュニティにおけるケアラーの役割も重要性を増している。

 よって、本報告では、地域コミュニティのなかで新たに出現している子育て支援NPOで活動する男子学生ボランティアへの聞き取り調査とNPOへの参与観察を通して、「ケアラーとしての男性」の出現が、主に女性が中心となっている子育て支援NPOの「場」に与える影響を考察する。また、彼らにとって、ケアの意味とは何か、日々のケアの実践の中で、どのようなケア意識、ジェンダー意識、アイデンティティを構築しているかもあわせて考察する。

 女性(母親)が主な担い手である子育て支援NPOに男子学生が関わることは、ケアのジェンダー公正な分かち合いの可能性を秘めているとも考えられるが、男子学生たちが男性役割を担うことによるジェンダー再生産の危険性もはらんでいる。これは、「ケアラーとしての男性」の登場が、必ずしも既存のジェンダー秩序を変容させるものではないことを示唆している。一方で、男子学生たちが、子育て支援NPOに関わる中で、ケア意識、ジェンダー意識を変容させている側面もあることを報告する。

第3報告

結婚相手にもとめる条件にみるジェンダー差と地域差
――『北京晩報』と『新民晩報』の結婚相手の募集広告の分析

王 岩(首都大学東京)

 中国では結婚相手の選択における昔から「門当戸対」(家柄・身分がつりあうこと)、「郎才女貌」(男は才能、女は美貌)という成語がある。つまり前近代中国社会においては、家柄の釣り合う同類婚が認められていた。その上ジェンダーによって結婚相手にもとめる条件は差異が存在することを示していた。

 ところが、共産党政権の確立、経済体制の改革などの社会変動を経て、現代中国における結婚観および結婚相手にもとめる条件はどう変容しているか。これに対して本報告では北京と上海で発行されるローカル紙の『北京晩報』(北京)と『新民晩報』(上海)に掲載された結婚相手の募集広告の分析結果の報告を行う。

 本報告では『北京晩報』(北京)と『新民晩報』(上海)に掲載された結婚相手の募集広告を抽出し、分析を行った。分析は以下の3点に焦点を当てることにする。1)ジェンダーによって男女広告主が結婚相手にもとめる条件の差異、2)北京、上海それぞれの地域性によって結婚相手にもとめる条件の差異、3)社会的属性(学歴、職業など)における同類婚傾向があるか、である。

 本報告では結婚相手にもとめる条件の変容を通して現代中国における婚姻観の変容及び多様な社会問題の解明に寄与するのではないかとおもわれる。

第4報告

家族・仕事・アイデンティティ――パート主婦にみる女性たちの社会意識

コ久 美生子(武蔵大学)

 育児が一段落してから再就職する女性たち。彼女たちの多くは、1週間に36時間以下のパート労働を選択する。パート労働に従事する主婦たちは、フルタイムで働く主婦たちと専業主婦との間にあって既婚女性労働者のマジョリティを形成している。

 ところが、これまでパート主婦たち自身の考え方やものの見方が彼女たち自身の言葉で語られる機会は、ほとんどなかった。報告者は、パート主婦たちを中心に、正社員の主婦や専業主婦も含めた35歳から55歳までの主婦たちに個別インタビューを実施した。本報告では、インタビュー調査の結果得られたパート主婦たちの発言を紹介し、彼女たちの職業意識、家族意識、アイデンティティという視点から、パート主婦たちの姿を明らかにしていきたい。

 主婦たちがパート労働を選択して働く理由は様々であった。けれどもパート労働は、彼女たちにより開かれた社会関係を提供していた。働くことで得られる人間関係、子供を通じた学校や近隣の人々との関係、実家の両親も含めた家族との関係など、パート主婦たちはより多様な社会関係を大切にしていた。とりわけ着目されるのは、多様な社会関係の中で自らの役割を果たしていること、ここにパート主婦たちのアイデンティティの源があることである。本報告では、暫定的な結論として、パート主婦たちによる多様な社会関係での役割遂行が、どのような社会のあり方と関与するのかを提示する予定である。

第5報告

家族介護に必要な連続休暇と介護休業

池田 心豪(労働政策研究・研修機構)

 育児・介護休業法により、労働者は、勤務先の規定にかかわらず、対象家族1人につき要介護状態に至るごとに1回、通算93日まで介護休業を取得できる。法制化当時、介護休業への期待は大きいものだったが、その取得者は少ない。家族介護のために仕事を休む必要が生じた労働者は、年休取得や欠勤など、介護休業以外の方法で対応している。だが、そもそも休業でなければ両立が難しい連続休暇を労働者が必要としているのかさえ、実態はこれまでほとんど明らかになっていない。

 そこで、家族介護のために労働者はどの程度の連続休暇を必要としているか明らかにする。この観点から、どの程度の連続休暇を必要性とする労働者がどのような方法で休んでいるか、家族介護のために退職した労働者はどの程度の連続休暇を必要としていたか、明らかにしたい。

 アンケート調査の分析結果から、@ 家族介護のために連続休暇を必要としても、多くの場合は2週間未満と短期であること、A2週間未満の連続休暇を必要とする労働者ほど家族介護のために年休取得や欠勤等の経験があること、B3ヵ月以上の連続休暇を必要とする労働者ほど介護開始当時の勤務先を退職していることが明らかとなった。要するに、家族介護を担う労働者の連続休暇の必要性と休業期間・取得回数の規定に乖離がある。介護休業制度が利用されるためには、休業期間の延長と複数回取得の規定により、短期・長期双方の連続休暇の必要性に対応することが重要である。

報告概要

出口 泰靖(千葉大学)

 第4部会では、テーマが「家族」あるいは「ジェンダー」に関わる報告を5名の方が行われた。まず、佐藤典子氏の報告「看護職における医療化・ジェンダー化・職業化の過程−女性のハビトゥスとプラティックについて」では、日本とフランスの看護職の歴史と現状を追うことで、看護が女性の仕事として多くの文化圏で長きにわたって定着した背景についての考察が報告された。次の堀聡子氏の報告「子育て支援NPOにおける『ケアラーとしての男性』」では、子育て支援NPOにボランティアとして参加している男子学生に着目し、「ケアラーとしての男性」である彼らの実践が、ジェンダー規範とどのように関連しているのかについて考察がなされた。そして、王岩氏の報告「中国の都市における結婚相手にもとめる条件にみるジェンダー差−『北京晩報』と『新民晩報』の結婚相手の募集広告の分析−」では、中国都市部の新聞紙の結婚相手の募集広告を分析することで、現代中国都市における人びとが結婚相手にどういう条件を求めているのか、その条件にみられるジェンダー差について検討する、というものであった。さらに、徳久美生子氏の報告「仕事・家族・アイデンティティ−パート主婦を中心にみた女性達の社会意識−」では、短時間労働のパートタイマー主婦たちの家族や仕事やアイデンティティの三つの観点から、女性たちの非正規労働がもつ時代特性について、パート主婦である当事者自身にインタビュー調査を試み、考察したものであった。最後の池田心豪氏の報告「家族介護に必要な連続休暇と介護休業」では、家族介護を担う労働者の多くが、年休取得や欠勤・遅刻・早退で仕事を休みながら介護をしており、介護休業制度がほとんど利用されていない現状について要介護者と同居する労働者のアンケート調査を分析することで、現行の介護休業制度は家族介護を担う労働者の実態に対応していないことを指摘し、介護休業制度を利用しやすくするために休業期間の延長と複数回取得の必要性を訴えられた。

 各報告とも、フロアから熱心な質疑応答がなされ、佐藤氏の報告の「看護職を女性が選択するのは単なる性別役割分業の受容ではなく、こうした支配を見据えた、むしろ戦略として意図的に行っている」という指摘に対し、その戦略性のありようについて議論が行われた。堀氏の報告では「子育て広場」という場における男子学生ボランティアの存在と彼らの「遊びの実践」によってこれまでの母子に固定化されたケアを脱構築する可能性があるとの堀氏の指摘には、男子学生ボランティアの実践が逆にジェンダー規範を強化する面も否めないのでは、との意見も出された。さらに、王氏の報告では新聞広告のデータだけでは中国人の男女の結婚観とそのジェンダー差を一般化するには十分ではないのでは、との意見も出された。司会者としては、看護、育児、婚姻、パート労働、介護の領域に関する調査研究にはジェンダーの側面からの考察が不可欠なのだが、そうした領域にジェンダーの枠組みがあることを指摘するだけでとどまるのではなく、今回の報告のようにさらにもう一歩踏み込んだ考察の必要性を感じた次第である。

▲このページのトップへ