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年次大会
大会報告:第55回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第7部会)


第7部会:若者(2)  6/17 10:00〜12:30 〔1B棟・2階 1B202講義室〕

司会:伊奈 正人(東京女子大学)
1. 「フリーター」/「ニート」を生きる 仁井田 典子(首都大学東京)
2. 若者における「感覚」的な職業とは何か
――クリエイターとアイデンティティの社会学
加島 卓(東京大学・日本学術振興会)
3. 「笑い」を重視する若年層のコミュニケーション
――会話分析からみる一考察
瀬沼 文彰(東京経済大学)
4. 現代大学生の「まじめさ」の形成要因
――勉学を重視する学生の文化的背景に着目して
小澤 昌之(慶應義塾大学)

報告概要 伊奈 正人(東京女子大学)
第1報告

「フリーター」/「ニート」を生きる

仁井田 典子(首都大学東京)

 近年、若年者の就業意識や就業行動が社会問題となっている。それらの問題を象徴しているのは、「フリーター」「ニート」という社会問題カテゴリーである。本報告は、「フリーター」「ニート」というカテゴリーに含まれる若年者が、生活世界をどのように生きているのかを明らかにしていく作業の一つである。すなわち、それは、「フリーター」や「ニート」として社会問題化されている若年者が、自らの労働や生活(の過去・現在・将来)に対してどのような意味づけを行っているのか、さらに自己をどのようにアイデンティファイしているのかを明らかにしていくことである。本報告で主として使用するデータは、「フリーター」と「ニート」の境界線上を生きている一人の男性(Aさん)に対するインタビュー調査から得たものである。高校卒業後、専門学校を修了したAさんは、正規雇用の職業に就かず、いくつかのアルバイトを転々としてから、現在、毎週ヤングジョブスポットに通いながら、これまでに貯めた貯金を切り崩して生活している。「語学力を生かした職に就きたい」という希望をもちながらも、それは漠然としたままで、叶わぬ夢となりつつある現実が伸し掛かってきているAさんは、「貯金が尽きればアルバイト生活に戻るのも仕方ない」と語る。Aさんの語りを通じて、社会問題化される「フリーター」/「ニート」を生きる若年者の生活世界の一端を明らかにしていくのが、本報告の具体的な課題である。

第2報告

若者における「感覚」的な職業とは何か――クリエイターとアイデンティティの社会学

加島 卓(東京大学・日本学術振興会)

 メディア文化が「コンテンツ産業」として国家的に支援される現代は、「クリエイター」を職業として選択することを奨励する社会である。ここで注目されるのは、クリエイターの特徴として「感覚」なるものが肯定され、これを人材育成で規格化することは困難であると認識されている点である。つまりクリエイターの増加は期待される一方で、その職能はどうしようもなく曖昧なのである。しかしその曖昧さこそが、若者にクリエイターを積極的に選択させる動機にもなっている。

 そこで本報告は、このような若者の職業選択における「感覚」の肯定に注目し、こうした選択自体がどのようにして可能になったのかを言説分析≒歴史社会学によって明らかにしていく。具体的には、1960年代から1970年代に東京五輪や大阪万博などの国家的なイベントと草月アートセンターなどアンダーグラウンドな活動の双方に積極的に関わることで広く認知されることになった「グラフィック・デザイナー」という職業カテゴリーに注目し、これが当時の若者にどのように受け止められ、なおかつ「感覚」的な職業としてイメージされるようになったのかを述べていく。

 このような作業によって、「感覚」的な職業を肯定する若者の認識と論理を明らかにし、曖昧なまま運用されていく職業としてのクリエイターを社会学的に分析していくための方策を示していきたい。

第3報告

「笑い」を重視する若年層のコミュニケーション――会話分析からみる一考察

瀬沼 文彰(東京経済大学)

 若年層のコミュニケーションのスタイルとして、「ノリ」を主体とする傾向や、「キャラ」を介した人間関係に関する議論が社会学の領域で取り上げられることはあるが、日常生活で他者の「笑いを取る」というスタイルの会話にはあまり注目が集まっていない。そこで、本報告では若年層が笑いをツールとして他者とコミュニケーションを展開している側面に注目する。

 その上で参考にするのは、2005年度に朝日新聞社総合研究本部が行なった「笑いに関する全国世論調査」(全国3000人の有権者男女、有効回答者数1921人)である。量的調査からは若年層が他の年代に比べて日常会話の中で笑いを意識している傾向が顕著に読み取れるため、本報告では「若年層は日常会話で笑いを重視する傾向にある」という仮説を出発点にして以下の検証を行う。

 @報告者が2004年から3年間、電車やファーストフード店にて若年層の会話をICレコーダーで録音しテープ起しを行って採取した約150の会話事例のうちいくつかを用いて、彼/彼女たちが実際にどのような内容で笑っているのかを提示し、そこから見えてくる傾向をあげる。

 A若年層が日常会話で頻繁に笑うという行為の背後にある若年層の特徴や問題点を検討することで、笑いの現代的な意味合いを考察する。

第4報告

現代大学生の「まじめさ」の形成要因
――勉学を重視する学生の文化的背景に着目して

小澤 昌之(慶應義塾大学)

 最近の大学生の雇用動向は、大学生の新卒採用数が軒並み上昇を見せている一方、フリーター人口は依然として高水準にあり、若者の雇用機会や待遇に二極分化が生じている。ただ、世間の人々が大学生に抱くイメージは、近年まで「学力低下」やゆとり教育世代といったキーワードが話題に上っていたこともあり、規範意識の低下や教養のなさなど消極的な見方が先行し、いわゆる「若者バッシング」を支持する趨勢が形成されている。

 しかし、岩田弘三や伊藤茂樹などが指摘するように、1990年代以降、学生生活の活動の中心は、少しでも就職活動を有利にするために、人間関係やサークル活動よりも、勉学や資格取得を重視する傾向が現れている。また、対象者層の違いはあるものの、青少年研究会の調査によれば、規範意識に関する項目に関して賛成と回答する割合が、すべての項目で過半数を超えている。従って、若者としての大学生の大半は、社会に対して適応的で、社会に要請されている価値観に従い、そつなく学業をこなす学生が多いことが推測される。

 そこで、本報告では、マスメディアの影響を受ける若者としての姿と、日常「まじめな学生」として営む意識行動との間のギャップについて考察するため、当事者である勉学を重視する学生の文化的背景を把握することを目的とする。その際分析には、発表者が大学生を対象に行った質問紙調査の結果を用い、他の先行研究の調査結果と比較しながら、現代社会の大学生に対する「まじめ」観を捉える視点についても議論を行う。

報告概要

伊奈 正人(東京女子大学)

 若者(2)の部会は、大会2日目午前中に行われた。若者論は唯一2部会が設定された領域である。会場である50名ほどの教室は、最初から最後までほぼ満席で、途中立ち見で聞き入る熱心な参加者もあった。この領域に対する関心の高さがうかがえる。

 第1報告の仁井田典子(首都大学東京)「「フリーター」/「ニート」を生きる」は、いわゆる「フリーター」、「ニート」の「境界線を生きる」若者の調査研究である。語学という実学の代表とされてきたものに熱中しながら、他方で就業支援施設に通い、家族を「ライフライン」と位置づけ、しかしまた「家を出る」ことをめざす若者の姿を描き出し、「手段であるはずの語学」に熱中することで「現在の状況を忘却」する若者という論点、手段の目的化という論点に論じ至っている。フロアにいらした岩間夏樹氏は午後のテーマ部会でこの論点を引用・紹介されていた。

 第2報告の加島卓(東京大学・日本学術振興会)「若者における「感覚」的な職業とは何か――クリエイターとアイデンティティの社会学」は、若者礼賛一色の時代から、若者が罵倒される今日に至るまで、若者が感覚的であるという一点だけは変わってないことに注目し、それを自明視するのではなく、感覚的な存在として「若者」が立ち上がってしまうことについて歴史社会学的に考察したものである。一つの端緒である60年代のグラフィックデザイナーに事例を限定して詳細な分析を試みている。「わからないものはわからないまま面白い」という価値づけの論理が抽出され、対抗文化、および広告文化などによって例解がなされた。フロアの山田昌弘氏より、この価値づけの論理の内実を批判的に問う質問がなされ、有意義な意見交換が行われた。

 第3報告の瀬沼文彰(東京経済大学)「「笑い」を重視する若年層のコミュニケーション――会話分析からみる一考察」は、報告者の著書『キャラ論』を前提にして、若者のコミュニケーションにおいて、笑いが重要な要因となっていることを、事例によって明らかにしようとしたものである。いじめの問題なども視野に入れながら、キャラとツッコミの類型、笑いを介した若者のコミュニケーションの様態を考察した。本報告は調査研究をめざしたものであるが、笑いを介したコミュニケーションというものの調査の困難、その倫理性などについて重要な問題提起が行われ、意見交換がなされた。

 第4報告の小澤昌之(慶應義塾大学)「現代学生の「まじめさ」の形成要因――勉学を重視する学生の文化的背景に着目して」は、現代大学生の「まじめ」さについての調査研究の報告である。調査は、教員免許取得に関わる授業の履修者1235名を対象として行われたものである。「まじめ」さをめぐる計量的研究への一歩としての貢献を主張すると同時に、調査結果をもとに現代の学校教育問題についてのコミットメントを試みている。なお、報告の途中で学校のコンサマトリー化という論点が提示されたが、司会者のまとめに――「まじめ」のコンサマトリー性という――とっさの思いつきによる重大な誤解があったことをこの場を借りてお詫びしておきたい。

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