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年次大会
大会報告:第54回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第2部会)


第2部会:ヨーロッパ社会論  6/17 10:30〜13:00 [西校舎・1階 513教室]

司会:宮島 喬 (法政大学)
1. フランス都市暴動の社会学(1)
――「ガレール」:社会的排除社会の行為システム

稲葉 奈々子 (茨城大学)
2. フランス都市暴動の社会学(2)
――若者の抵抗表現とその変容

森 千香子 (南山大学)
3. フランス都市暴動の社会学(3)
――セキュリティと移民

樋口 直人 (徳島大学)
4. イタリアにおける移民政策と定住外国人の地方参政権問題 秦泉寺 友紀 (東京大学)

報告概要 上野 千鶴子 (東京大学)
第1報告

フランス都市暴動の社会学(1)
――「ガレール」:社会的排除社会の行為システム

稲葉 奈々子 (茨城大学)

 フランスの都市暴動について、行為の社会学は、産業社会型のアイデンティティの準拠先(典型的には「労働者」)が消失した脱産業社会の底辺層の若者の行為として読み解くことを試みてきた。暴動は、「不発」ではあるが、新しい社会関係の構築の申し立てを内包する行為として考えられてきた。とくに、資格を得ずに学業を途中でやめたのちに定職に就いていない若年貧困層の行為を「ガレール」という新しい行為のシステムとして捉えられてきた。これは暴動を、アノミーや葛藤へのリスポンス、あるいは自分たちに付与されたスティグマに対する行為としてだけでは説明できないことから、産業社会の行為のシステムの解体、つまり脱産業社会への移行という社会変動のなかに位置づけようとする試みでもある。本報告では、この「ガレール」という行為のシステムが暴動として現れる契機を、フランスの1980年代以降の政策との関連で説明したい。1980年代から1990年代半ばまでの社会民主主義的な政策は、若年貧困層の社会統合を一定程度保障した。それに対して1990年代半ば以降のEU統合下のフランスの新自由主義的政策は、若年貧困層の社会的排除を強化する方向に働いた。脱産業社会が供給するアイデンティティの準拠先は、宗教(とくにイスラム)といった共同体的なものであったり、アフィニティ・グループであったりする。こうしたアイデンティティを選択しえない若年貧困層のマージナリティの強化への抗議の一形態が暴動であると考えられる。

第2報告

フランス都市暴動の社会学(2) ――若者の抵抗表現とその変容

森 千香子 (南山大学)

 2005年「暴動」勃発直後、フランスの政治・メディア空間で「犯人」として名指されたのは「移民」「更生の見込みなき再犯者」「ムスリム」「テロリスト」などであり、これらの要素がすべて集約する存在としての「郊外の若者」だった。彼らは「善良な市民」の生活を脅かす「社会の屑」と呼ばれ、社会から「一掃されるべきゴロツキ」と規定され、政府の治安管理政策の強化を正当化する論拠とされた。「郊外の若者」を治安悪化の原因と見なし排除の対象とする「危険な階級」論は、1990年代後半から保守・革新の両陣営で徐々にコンセンサスを集めてきた見解であり、それが今回の「暴動」によってより先鋭化したと考えられる。だが一方で、今回検挙された若者の社会学的背景を検証すると、ステレオタイプとは異なった「暴徒」像が浮かびあがる。「札付きの不良」ではなく「普通の若者」たちが「暴動」に参加したのはなぜか。この問いを出発点にして、本報告では「フランスの地下室」とよばれる都市下層に位置づけられた郊外の若者の直面する問題とそれに対する抵抗表現の問題を、1990年代以降の社会変容を参照しながら変化の相において考察する。この考察を通して、若者が放火行為に及んだ過程と論理を複数の角度から光をあてることを目的としたい。

第3報告

フランス都市暴動の社会学(3) ――セキュリティと移民

樋口 直人 (徳島大学)

 90年代後半に始まり、2001年の同時多発テロや2005年のフランス都市暴動で決定的になった傾向として、移民問題のセキュリティ化(securitization)がある。セキュリティ意識の強まりと治安管理体制の強化は世界的に生じており、移民に限らず近年かまびすしく議論されてきた。日本でも、指紋押捺の復活や入国管理・外国人摘発体制の強化など、ここ数年で移民対策が急速に進んでいる。この報告では、そうした傾向を現代社会論的に把握するべく、以下の3つの論点を順に追うことで、セキュリティと移民に関する議論の整理を行う。(1)再帰的近代化の進展により、「産業革命→リスク革命」と「国民革命→グローバル革命」という2つの大きな変化が生じた。これによりセキュリティが大きな争点となる。(2)従来の移民排除の論理は、失業率の上昇や社会保障への負担といった社会経済的要因か、国民文化への脅威といったナショナリズムに基づいていた。それに対して、新たに顕著になったセキュリティの論理は、前二者とは異なり特定の政治勢力に限定されない(亀裂構造を乗り越えた)移民排斥の動きを生み出す。(3) 移民に関して特徴的なのは、国内的な治安と対外的な安全保障の双方に対する脅威として浮上した点である。その意味で移民は、セキュリティ(治安=安全保障)対策の焦点としてフレームアップされ、移民排除の論理もセキュリティの観点から新たに構築されつつある。

第4報告

イタリアにおける移民政策と定住外国人の地方参政権問題

秦泉寺 友紀 (東京大学)

 イタリアへの移民数はこの10年で約2倍という急激かつ大幅な増加をみせており、イタリアにおける社会的な関心も高い。現在イタリアには、正規に登録されているだけで約240万人の移民が生活しているが、1970年代頃まで移民をむしろ送り出す側にあったイタリアでは、その受け入れの歴史は短く、その処遇をめぐる見解もさまざまで対立含みのものとなっている。現在イタリアでみられる移民をめぐる解釈は、大きくは2つに分けられる。すなわち、第1に、イタリアの社会秩序を脅かす懸念のある他者として移民を捉え、その受け入れは可能な限り限定的なものにとどめるべきだとする見解(限定論)、第2に、彼ら移民を社会生活において一定の役割を果たすべきイタリア社会の新たな構成員とみる見解(包摂論)がそれである。本報告では、度重なる「正規化(regolarizzazione)」(雇用者による承認があれば不正規滞在者も正規の滞在許可の申請ができるとする措置)からトゥルコ・ナポリターノ法(1998年)を経てボッシ・フィーニ法(2002年)に至る移民政策の変遷や、定住外国人の地方参政権をめぐる問題、議論を手がかりとして、先にあげた限定論と包摂論の対立における真の争点――両者の対立は、一見したところ移民の受け入れの規模や速度をめぐるものにみえるが、実際にはイタリアというナショナルな共同性の意味づけをめぐって対立している――を描き出したい。

報告概要

宮島 喬 (法政大学)

 「新移民大陸」と呼ばれる西ヨーロッパでは、移民およびその移民に由来する定住者とどのように共生するかという問題と絶えず向き合うようになっているが、2005年秋にはフランスのパリ郊外地域での移民の青少年の「暴動」が生じ、またスペイン、イタリアなどは南からの移民の流入への対応に迫られ、困難な課題を抱えている。稲葉氏、森氏はこの最近の都市暴動に関連し、底辺の若者の行動様式を「ガレール」というコンセプトで捉え(稲葉氏)、「危険な階級」視する世上の認識を問題にし(森氏)、ともに彼らの中に抗議・抵抗の契機を見出そうとした。樋口氏は、「セキュリティ化」という形で移民問題が捉えられるようになっている現状に注目し、政治的対立等を越えて「合意」を生み、移民排斥の論理をつくりだしていることを指摘した。移民問題が、治安問題、安全保障問題にまで結び付けられていく脈絡を捉えようとしたものである。秦泉寺氏は、後発の移民受入国イタリアにおける受入れ、排除の諸議論を整理している。一見受け入れの方法や規模などが争点になっているようにみえ、その実、イタリアというナショナルな共同性の意味づけをめぐっての対立であることを、報告は明らかにした。

 移民あるいはその他マイノリティが関わる都市問題を照射する視角として、3つの報告はそれぞれ示唆的だったが、アクターとしての移民あるいは都市下層青年たちの抵抗や抗議の志向をいま少し具体的に引き出すことが稲葉、森氏には求められよう。樋口報告は、「セキュリティ」の議論が、「リスク」「信頼」など関連性をもつ概念(ベック、ギデンズ)とどう関わるのか、というさらなる関心を喚起してくれる。

 イタリアの移民受入れはいくつか独自性をもつが、またヨーロッパの中で他の受入れ国(スペイン、ギリシアなど)と共通点もあるはずで、今後は比較研究が必要とされよう。  

 課題は残ったが、部会としては刺激に満ちた報告、討論の場となった。

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