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年次大会
大会報告:第54回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第12部会)


第12部会:社会意識・消費  6/18 10:00〜12:30 [西校舎・1階 516教室]

司会:間々田 孝夫 (立教大学)
1. CVSのセーフティーステーション化の論理
――2000年代における消費空間の管理社会的変容
田中 大介 (筑波大学)
2. 消費生活のグローバル化と対外意識 [PP使用] 寺島 拓幸 (立教大学)
3. 株主重視の経営を支持しているのはどのような人々か?
――無作為抽出による個人調査の結果から
 [PP使用]
高橋 康二 (東京大学)
4. 自由の社会的布置
――現代日本における豊かさと格差
 [PP使用]
内藤 準 (日本学術振興会)

報告概要 間々田 孝夫 (立教大学)
第1報告

CVSのセーフティーステーション化の論理
――2000年代における消費空間の管理社会的変容

田中 大介 (筑波大学)

 本報告では、1990年代に家族・地域・国家等の集団・組織の「空白地帯」であった消費ネットワークとしてのコンビニエンス・ストア(以下CVSと略す)が、2000年前後に「セーフティステーション」としてまなざされることを通して、そうした集団・組織へと回収されていく過程と論理を析出する。

 1980年代から1990年代にフランチャイズ制とPOSシステムによって消費のネットワークとして成熟していったCVSは、いつでも・どこでも・新しい商品(新鮮・新種)を提供可能にした。消費者は、このネットワークが存在すること(に対する期待)によって目的合理的な「便利さ」と同時に、ある種の〈安心〉を消費することができる。さらにCVSという消費空間は、諸集団・組織から離れた「空白地帯」としても機能することにもなった。

 2000年前後のCVSは、家族・地域・国家によって、犯罪・非行の温床、いわば「危険地帯」としてまなざされる。そうしたまなざしを通して、CVSは「危険地帯」であることをさらに反転させ、諸集団の安全を担うセーフティステーションとしての役割を持たされる。つまりセーフティステーション化とは、消費ネットワークとしてのCVSを、国家規模の安全ネットワークに転化させる戦略といえる。その際重要なことは、そうした管理戦略が上から押しつけられたものではなく、1990年代のCVSの「安心の消費consumption of relief」に、「安全の消費consumption of safety」が繰り込まれる点である。

 本報告は、2000年代のCVSの消費者が、安心と安全と意味的な混濁を通して、管理主体になることが期待される過程を論じる。

第2報告

消費生活のグローバル化と対外意識

寺島 拓幸 (立教大学)

 今日われわれは、意図するしないにかかわらず、世界中のモノや情報を消費している。食料品を買いにスーパーにいけば、驚くほど多くの種類の原産国表示を目にする。インターネットを活用すれば、自宅にいながらにして世界中の商品を取り寄せることができる。衛星放送やCATVを利用すれば、海外のさまざまな映像コンテンツを手軽に視聴することができる。こうした「消費生活のグローバル化」を背景として、人びとはどのような対外意識を形成しているのだろうか。この点を明らかにするのが本報告の目的である。具体的には、外国製品に関する消費スタイルや嗜好パターンと(1)外国への親近感および(2)外国文化の受容に対する意識との関係を本研究の射程としたい。

 生活者にとって文化のグローバル化は何よりもまず日常的な消費生活として、すなわち外国製品の選択・購入・使用として経験される。こうした経験は、対外意識、とりわけ親近感や文化を受容する態度の形成に少なからず寄与していると考えられる。たとえば、映画やドラマなど韓国製情報財の消費は韓国への親近感にポジティブな作用があるだろう。ディズニーランドやハリウッド映画の魅力はそのままアメリカ文化のさらなる受容を促進する方向へと作用するかもしれない。とはいえ、そうした作用の仕方は一様ではありえない。消費者の性別、世代、社会階層、グローバル商品の性質、生産国との関係などによって異なる影響を示すのではないだろうか。そこで、本報告では、2005年11〜12月に実施したアンケート調査にもとづきながらこの点を実証的に検討したい。

第3報告

株主重視の経営を支持しているのはどのような人々か?
――無作為抽出による個人調査の結果から

高橋 康二 (東京大学)

 これまでの日本の大企業は、他国の企業に比べ、従業員の雇用や賃金の安定に相対的に大きな配慮を払ってきたといわれる。しかし、1990年代後半以降、企業の取り組みにおいても法制面においても、株主の利益に配慮した経営を行なう、あるいはそれを促進する動きが強まっている。
従業員の利益と株主の利益をどう調整すべきか――この問題をめぐっては、企業経営者や組合関係者に対する調査を含め、多くの議論と研究がなされているが、一般国民がどう考えているのかは、必ずしも十分に明らかにされていない。本報告では、東京大学文学部社会学研究室が2005年11月に実施した個人質問紙調査に基づき、(1)そもそもコーポレート・ガバナンスの問題に関心を持っているのは誰か、(2)株主重視の経営を支持しているのは誰か、(3)株主重視の考え方はどのような政策志向と結びついているのかを分析する。
 分析の結果、(1)(2)では、性別、年齢、学歴、就業形態、職種、企業規模、年収といった多くの要因が影響を与えていることが、(3)では、国家主導の産業育成に対する違和、規制緩和の促進といったマクロ的な自由競争志向が株主重視の意見形成に一定の影響を与えているが、年功序列・生活保障的な賃金体系の見直しなどミクロ的な業績主義志向は影響を与えていないことが明らかになった。

第4報告

自由の社会的布置 ――現代日本における豊かさと格差

内藤 準 (日本学術振興会)

 「何かを自由に行える、できる、自分で決められる」ことは、常識的な意味で望ましいことだ。だが自由は、どのように制度的・社会的に規定され、人びとに分配されているのか。さらに、その人や社会にとっていかなる意味をもち、どんな結果をもたらすのか。
 本報告は、こうした問いへ向けて進めている分析作業の経過報告として、その下敷きとなる構想を示すことを目的とする。2005年に行った無作為抽出標本調査(全国、20?79歳男女、有効回収数1,320)のデータを使用し、以下の考察を行う。
@「自由」を人々の意識からとらえるため、同調査において報告者が作成した項目による「生活の自己決定感」(生活決定感)尺度を構成し、その概念的意味を考察する。
A学歴・収入・職業・健康といった階層的・社会的資源が、人々に生活決定感の格差をうみだしていることを示す。またそのパターンがジェンダー・年齢などによって異なることを示し、その格差やパターンの違いをもたらす制度的要因について考察する。
B人々の生活決定感が、彼/女らの個人的生活の豊かさに結びつき、社会の公正さや責任帰属の仕方についての考え方にも結びついていることを示す。
C以上の要因が、社会的資源の(再)分配政策に関する人々の選好と、どんな関係にあるのか分析する。また、民主的決定制度におけるその政治的含意を仮説的に検討する。
 以上の成果をふまえて、階層研究等とも関連したさらなる分析計画と課題を提示する。

報告概要

間々田 孝夫 (立教大学)

 本部会では、若い研究者達によって四つの報告がなされたが、いずれも広い意味で経済とかかわりのある領域について経験主義的なアプローチをとったものであり、関東社会学会としては珍しい内容の部会だったのではないかと思われる。(筆者は入会してからまだ間がないので間違っているかもしれないが。) 筆者も経済社会学会に属し、同様の立場で研究を続けてきたので、喜んで司会を担当させていただいた。

 第一報告(田中大介氏)は、コンビニエンスストアが2000年代以降、たまり場として機能していた「社会からの避難所」から、セーフティステーションの機能を期待される「社会への避難所」へと変容しつつあることを中心論点とする、意欲的な研究であった。

 第二報告(寺島拓幸氏)は、大量郵送調査のデータを用いて、もっとも身近に外国を経験する機会である外国製品の消費が、外国に対する親近感の形成に寄与しているかどうかを検討しようとしたもので、緻密なデータ分析がなされていた。

 第三報告(高橋康二氏)は、大量面接調査データを用いて、近年注目を浴びる株主利益重視の経営(従業員利益重視の経営の対極に立つ)を重視しているのはどんな人々かを明らかにしようとしたもので、同じく緻密なデータ分析がなされていた。

 第四報告(内藤準氏)は、高橋氏と同じ東大社会学研究室のデータを用いて、どのような社会的属性が「自由感」をもたらすのか、また「自由感」が生活満足感その他の生活意識にどのように影響するかを詳細に分析したものであった。

 いずれも充実した報告であり啓発されるところ大であった。今後、同様の研究が増加していくことを期待する次第である。

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