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年次大会
大会報告:第54回大会 (報告要旨・報告概要:自由報告 第13部会)


第13部会:医療・ボランティア  6/18 10:00〜12:30 [西校舎・2階 522教室]

司会:奥山 敏雄 (筑波大学)
1. 歯科医師数過剰という問題の認識は歯科医師の専門職化の過程にどのような影響を与えたか [PP使用] 押小路 忠昭 (明治学院大学)
2. ボランティア組織が活発化する要件はなにか?
――長野県内における3つの病院ボランティア組織の比較から
 [プロジェクター使用]
竹中 健 (北海道大学)
3. 心理学的疾患の非逸脱化と犠牲者の医療化 佐藤 雅浩 (日本学術振興会)
4. 精神科救急医療の現場から 村澤 啓
(川崎市精神保健福祉センター、済生会川口看護専門学校)

報告概要 奥山 敏雄 (筑波大学)
第1報告

歯科医師数過剰という問題の認識は歯科医師の専門職化の過程にどのような影響を与えたか

押小路 忠昭 (明治学院大学)

 今日、歯科医界において歯科医師の過剰問題は最も深刻で解決の糸口が見出せない問題として認識されている。

 歯科医学史を俯瞰すると、大正期において既に歯科医師の間でこの問題が喚起され、行政に対し歯科医師養成の抑制を求める運動が歯科医師会を中心に組織的に展開している。しかし同時期、行政によって歯科医師養成機機関設置の認可が進められている。この様な状況に対し歯科医界は学校医への歯科医の採用、歯科医師の技官としての登用、陸海軍の軍医への歯科医の登用の請願などの組織的な運動を展開しこれらを実現させている。そして同時に民間企業とタイアップする形で大規模な歯科衛生啓蒙運動を全国規模で継続的に展開している。この様な活動によって歯は、「予防し、治療する対象」としての身体として社会に広く認識されるようになり、このことによって結果的に歯科医界は自らの医療の対象領域を拡大させることで「過剰問題」を解決し、同時に専門職としての高次化を達成を可能とした。

 まず明治以来歯科医師の間で共有された「歯科医師数過剰」という言説が、職業アソシエーションとしての歯科医師会や学術団体の形成、組織特性、運動形態にどのような影響を与えたのか考察を行う。そして現在と過去の「過剰問題」の違いを、歯科医療を取りまく環境の変化と、医療そのものに向けられた・・・・まなざしの違いにおいて捉え比較対照し、今日の「過剰問題」の意味を考察したい。

第2報告

ボランティア組織が活発化する要件はなにか?
――長野県内における3つの病院ボランティア組織の比較から

竹中 健 (北海道大学)

 ボランティア組織が活発化する要件はなにかを考察する。95年頃以降、国家・行政による福祉サービス部門への「ボランティア組織」の移植とそれらの組織への「市民」の動員が積極的におこなわれ、それらの組織の一部は実際に定着しつつある。その一方で、はたしてそれらの「ボランティア」組織の実態は、どのようなものになっているのか?これを捉えるため、継続的かつ組織的なボランティア行為を可能にしている〈病院ボランティア〉に着目する。行政が積極的に病院ボランティア組織の立ち上げにかかわる以前から、一部の病院では院内における先行的なボランティア活動がおこなわれていた。しかし、行政に後押しされ病院側のバックアップを受けはじめたこの10年の間に、かならずしもこうした活動が活発化してきたとは、報告者がこれまでかかわってきた限られた事例からは言い難い。今回の報告は、長野県における三つの病院ボランティア組織を比較することにより、組織の活発化の要件を探ろうとする試みである。S市はA病院(長野厚生農業組合連合会系列)を中心とする地域医療の展開が、全国レベルで知られている。注目されている半世紀にわたる独自の地域医療の展開と、病院内におけるボランティア活動とが、どのように結びついているのかを調べた。一方、同じS市にあるB病院(市立総合病院)およびN市のC病院(私立病院)について、組織の違いとボランティア導入経緯の違いを中心に、それがどのように活動内容の違いや行為者の活動意欲の違いと結びついているのかを比較した。

第3報告

心理学的疾患の非逸脱化と犠牲者の医療化

佐藤 雅浩 (日本学術振興会)

 本報告では、20世紀後半日本の大衆メディアにおいて、心理学的疾患が社会的「逸脱者」に関わる問題であるという認識が後退し(心理学的疾患の非逸脱化)、次第に幅広い社会成員、なかでも犯罪・災害等の犠牲者に関わるものとして語られるようになってきたこと示す(犠牲者の医療化)。

 本報告で言う「心理学的疾患」とは、ある時代や社会において、精神や心理の専門家によって改善を要請される精神状態の総称である。かつて「狂気insanity」と呼ばれたこのような人間の精神状態は、近代社会において次第に「悪badness」ではなく「病sickness」としての性格付けをされ、医学的処遇のもとにおかれるようになったといわれている(Conrad & Schneider 1980=2003; 中川2000)。

 しかし「逸脱の医療化」を指摘しその政治性を批判するような研究視角は、近年の精神医療をめぐる社会的状況に対して十全な分析を提示しているとは言いがたい。なぜなら1980年代以降アメリカで頻繁に社会問題化されたのは、犯罪加害者など「逸脱者」の心理学的疾患ではなく、むしろ犯罪・災害犠牲者たちのそれだからである(Best1999)。また1990年代後半以降の日本でも、「被害者支援」を論拠として精神障害者処遇の様式が変容しつつあるという(芹沢2006)。本報告ではこうした指摘の妥当性を、国内大衆メディアの通時的分析から検証するとともに、心理学的疾患と「社会」の関係性の変容を分析することを目指す。

第4報告

精神科救急医療の現場から

村澤 啓
(川崎市精神保健福祉センター、済生会川口看護専門学校)

 現在、日本の精神科医療保健福祉施策は大きな転換期となっている。1987年に出された「精神保健法」により入院治療から地域支援への転換が図られるようになり、緊急時対策として精神科救急医療の整備が求められるようになった。現在、精神科救急医療は各都道府県および政令指定都市にて、地域社会の諸事情を踏まえながら、実施されるに至っている。日本の精神科医療保健福祉対策として、地域ケアの充実が掲げられ、包括的地域生活支援プログラム(ACT)の提案、精神科訪問看護の整備とともに、24時間対応できる精神科救急医療体制の全国的整備が今後の実施課題とされている。また、障害者自立支援法が施行されるなど、精神障害者を地域社会でサポートする動きが明確となっている。精神障害者の地域支援の背景には、「受け入れ条件が整えば退院可能」な入院患者を地域で支援し、膨れ上がった精神科病院の規模を大幅に縮小しようとする施策によるものであるが、予防的な意味も含まれている。特に、精神障害者の早期発見・早期治療により精神障害の悪化を食い止めるために、精神科救急医療の整備が重要とされている。報告者は神奈川県川崎市にて精神科救急医療システム専門員として勤務している。そこで、参与観察の視点から精神科救急医療の現実を示し、システムとしての問題とともに、精神障害者の地域支援の観点から今後の課題について検討する。

報告概要

奥山 敏雄 (筑波大学)

 第一報告、「歯科医師数過剰という問題の認識は歯科医師の専門職化の過程にどのような影響を与えたか」〔押小路忠昭(明治学院大学)〕では、大正期における歯科医師過剰認識への対応として、職業アソシエーションの形成を通じた専門職化が進行したが、その際、歯科衛生を身体の規律化へと包摂する戦略がとられたことが報告され、専門職化の過程の論理についてや衛生啓蒙運動の意味について質疑応答が行われた。

 第二報告、「ボランティア組織が活発化する要件はなにか?――長野県内における3つの病院ボランティア組織の比較から」〔竹中健 (北海道大学)〕では、病院ボランティアで活動する行為者の3類型と、病院/ボランティア組織、ボランティア組織/予期せぬ行為者という二重の異質性が組織的条件として導出され、行為者類型と組織的条件によりボランティア組織が活発化するか否かが論じられたのに対し、異質性と革新がどのように結びつくのか、医療という特質がどのように反映するのかについて質疑応答が行われた。

 第三報告、「心理学的疾患の非逸脱化と犠牲者の医療化」〔佐藤雅浩(日本学術振興会)〕では、新聞記事をデータとして、逸脱と心理学的疾患という問題系の変容を、逸脱の医療化の時代、心理学的疾患の非逸脱化の時代、犠牲者の医療化の時代として分析したうで、各時代の社会観をそれぞれ、他者化された狂気から自己防衛する社会、内なる狂気を再帰的に監視する社会、逸脱者を災害・事故などと並列視することで不可視化する社会であることが論じられたのに対し、非逸脱化概念、逸脱者の不可視化、分析方法をめぐり質疑応答が行われた。

 第四報告、「精神科救急医療の現場から 」〔村澤啓(川崎市精神保健福祉センター)〕は、学会当日緊急の仕事が発生したため、報告者は欠席された。

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